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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年11月

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2015.11.19 サキの日記


 夜中に目が覚めた。いつものことだ。


 母の謎めいたクローゼット代わりの部屋の中を、埃をかぶっている服をかき分けながら歩き回り、私は考えていた。


 虚しい空間。


 母が自分で選んだのではなく、舞台衣装とか、撮影用とか、プレゼントでもらった服なのだけど、うちに来たあと、一度でもまた着たかどうか疑わしい、というか、ここでは絶対に着てない。

 まるで、ある一人の人間についての、

 間違ったイメージの脱け殻が並んでいるよう。



 母は、私のGUのTシャツを勝手に着る。

 バカのワイシャツや怪しげなビジュアル系ロックバンドのパーカーも勝手に着る。

 私宛に郵便が来たと思ったら『由希さんが持ち出してました』という付き人の付箋がついた、私のカットソーとチュニックとスカートだった……なんてことも数回あった。

 でも、ここにある服を着てるのを見たことがない。ブランド好きな人がこの埃を見たら絶対卒倒する。


 奥の扉を開けた。ファミコンや卒業アルバムがしまってあった場所。イオンのカットソーにビニールがかかってる。ユニクロのワンピースからいい香りがすると思ったら、ハンガーにラベンダー柄の古びたポプリがひっかけてあった。あとは、縫い目があやしい見るからに手作りのエプロン。料理してるのをめったに見ないが、これは小さい頃に着てるのを見た記憶がある。母ではなく、バカの方が。奥には年季の入った訳ありなウエディングドレス。さわらないほうが良さそうな。

 ネイビーに花柄のワンピース。クリーニングのタグがついていた。これは結婚前から持ってるやつだ。バカと一緒に写っている写真を見たことがある。場所はクラーク像の前。二人ともクラークと同じポーズ。ただし母が逆向きで、バカと手の先が重なってて、下手な戦隊もののポーズに見えてしまう。発案はバカに違いない。



 なんだろう、この扱いの落差。



 私はブラシを取り出して扉を閉めた。暇潰しに服の埃を払おうと思ったが、すぐにくしゃみが止まらなくなって部屋を脱出した。



 うちの母は愛想がない。そこだけは私も似てる。若い頃は子役で笑顔を売ってたはずなのに、

『冷たい女を演じたら右に出るものはいない』

 に変わった。


 ちょうど、私が生まれた頃に。


 バカはこう言っていた。



 娘が出来たから、嘘がつけなくなったんだ。

 子供に偽の自分を生きてる姿なんか見せられないからねー、親になったらさ。俺がさらにハジけたのと同じだな。



 出産とともに偽の笑顔まで封印してしまったらしい。

 なんか、いろんなことがおかしい気がする。



 何か私に話していないことが二人の間にある。

 だけど、教えてくれない。

 何があったんだろう?




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