表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年9月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

958/1131

2017.9.27 水曜日 サキの日記

 うちの父が修二に聞いた話だと、修平は今全く動けない状態だそうだ。だからLINEにすら返事ができないらしい。

 ちょっと前まで、元気そうに偉そうなことを言っていたのに。

 

 秋倉に来ること自体が無茶だったんだよなあ。

 でも本人はどうしても『先生』の謎を解きたかったんだと。

 それに、一度は外で生活してみたかったんだと。

 その夢は叶ったわけだ。そう思うことにしようや。


 と父は言ったが、そんなんで私の気は晴れない。クラスのみんなだって同じだろう。みんなどこか沈んでる。今日体育の授業があったけど、バレーボールやってても、修平がいないことを意識してしまう。いっつも見学してて試合には参加してなかったけど、それでも。

 今日も勇気が動画撮ってたけど、いつもみたいに面白おかしく編集する気分ではないようだった。その代わり、保坂と話し合っていた。学校の授業を撮って病院にいる修平に見せられないか、と。さっそく先生方と相談しに行ったらしいけど、話し合いの結果がどうなったかは知らない。

 みんな何かしたくてたまらないけど、どうにもできない状態。佐加とヨギナミはお見舞いを送りたがっていたけど、あかねに『かえって悲しくなるだけじゃない?』と言われていた。

 私は帰り道で考えた。人間、今は元気でもいつ病気になって動けなくなるかわからない。病気を持ってなくても、事故や災害で死ぬことだってある。

 今死んだら、何に後悔するだろう?

『もっと勉強すればよかった』とは思わないだろう。勉強とか仕事は、未来のある人がするものだと思う。

 未来がない、と仮定した時、何をしたらいいのか。人生の残りが1日だと言われたら、できることなんてあるのか?たぶん本一冊読めるかどうかの時間。

 なんにも思いつかない。

 所長だったら、最期の日にも草原を散歩して自然と語らってそうな気がする。

 この世界にお別れを言う方法、何も浮かばない。

 きっとまだ私は元気で、生きていたいからだろう。

 修平に今どんな気持ちか聞いてみたいけど、好奇心だけでそんなこと尋ねるのは残酷で不謹慎だと思う。

 平岸家では平岸ママが柿を使ったスイーツを試作していた。他のフルーツに比べるとお菓子になってるイメージがない。タルトはおいしかった。ゼリーも作ったらしいけど、『失敗したから捨てた』と言っていた。

 私は部屋に戻り、未来ある者として勉強することにした。そしてふと、日本人が勉強好きなのは心が若い(幼い?)からなのかなとも思った。勉強する心というのはだいたい、未来にそれを生かそうとしている人、つまり、自分にはまだ人生の続きが長く残っていると信じられる人達だ。

 それか、単に勉強そのものが好きな人達か。

 考え事で脱線して勉強に集中できない。私はどうしてこうもあれこれ余計なことを考える頭に生まれたんだろう?この日記の一人語りに何の意味があるんだろう?考えることは大切だとみんな言う。でも、考え事ばかりしてると大事なことが何も進まない。

 ネットを見てると、考えずに行動している人の方が成功しているように見える。目立つ人が儲かる仕組みになっているから。でも、世の中目立ちたい人ばかりじゃない。じっくりと考えをめぐらすのが好きな人も多い。でも、その考えは、動画では表しにくい。評論家みたいに自分の考えを延々としゃべって動画あげてる人もいるけど、あまり見たいとは思わない。

 自分が見るのは猫の動画か、MVだ。米津玄師最強。

 佐加が言うように、自分で発信した方がいいのはわかってる。みんなそうしていることも。でもやっぱり私は、人の目が、中傷が怖い。


 母から『10月の収録来るよね?20日だけど』と催促が来た。行くから大丈夫って言っちゃったけど本当は出たくない。

 また『親子なのに似てない』『女優の娘なのにブス』『太ってる』とか知らない人に書かれて、しかも親が芸能人だというだけで『楽してる』『甘やかされてる』『ずるい』『二世』とか言われるんだから。

 母は自分が一世でしかも美女なので、ブスな二世のことは理解できないのだ。しかし今さら断れない。どうしよう。

 奈々子も出てこない。でも、いなくなったわけではない。朝起きた時窓辺に立って外を見ていた。でもあれ、もしかしたら夢かな?

 明日結城さんに会いに行こうかな。でもあのトッカータの後で顔を合わせるの気まずい。あれは私じゃなくて奈々子のものだった。でも、私にも甚大な被害、いや、影響を与えたのだ。少しは何か言ってくれてもいいはず。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ