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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年9月

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2023.9.21 木曜日 サキの日記

 修平がいなくなった。朝、沈んだ様子の平岸夫妻から、『病気が悪化して東京に戻ることになった。おそらく長期入院になる』と聞かされ、学校でも河合先生から同じような説明と、『戻ってこれるかどうかは大変厳しい状況』という言葉があった。

 クラス全員、沈黙。

 あまりにも急だったから。いや、確かに今年に入ってから何度か倒れて入院したりしてたからもしかしたら悪化してるのかなとはちらっと思ってたけど、何の前触れも説明もなく教室から消えられても。

 男子達は1日中『LINEが既読にならない』ってスマホ見ながら何度もぼやいていたし、伊藤ちゃんの顔色は青白いし、スマコンが『たぶんよくならないと思うわ』と発言してそれを聞いた佐加がキレて椅子投げつけようとしたのをヨギナミと藤木が止めてたし、とにかくみんな動揺している。試験終わったし、もう授業どころじゃない。

 ヨギナミのお母さんの次はカッパか。

 どうしてこの世はこんな風に、辛いことが起きるようにできているのだろう?別にカッパいなくなってもどうでもいいと思ってたけど、このいなくなり方は理不尽だと思う。新道も一緒に帰ったことになるし、幽霊問題まで一緒に暗礁に乗り上げてしまうんじゃないだろうか。

 いや、知ってる。

 本当に心配すべきなのはカッパの体調であって、

 幽霊問題ではない。

 私は自分勝手だ。


 帰り研究所に行った。いつもどおり天井からラヴェルが聴こえてきていたけど、今日は結城さんに用事はない。私は所長の所へ行き、修平が病気で帰ってしまったことを伝えた。所長も驚いていた。


 でも、そこまで悪いなら、

 自分の治療に専念すべきだよ。

 幽霊のことを考えてる場合じゃない。


 そのとおりだ。

 猫と遊ぶ気にもなれず、私はすぐに平岸アパートに帰った。そして考えている。こんなことが起こる意味は何なの?と。修平はもう学校に来ることができない。幽霊達はいなくなりそうにない。そして人はいつか死ぬ。死んでから幽霊になって苦しんでる人もいるけど、だいたいの人の人生はそこで終わり。何も悪いことをしていないのに、生まれつき病気だったり、変な人に当たって襲われたりする。

 また嫌なことを思い出してしまった。

 でも、生死の問題に比べたら、普段の私達の悩みや迷いなんて薄っぺらいものだということに気づいた。いざ死ぬかもしれないとなったら、他のことなんかどうでもよくなるのでは?ただ『この人生とは何なのか?』『死とは何なのか?』しか考えられなくなるのでは?

 修平に今何を感じているか聞いてみたいけど、LINEはいつまで経っても既読にならない。

 こんなこと考えてる私って無神経なのかな?

 まだ死んだわけじゃないし、死ぬと決まったわけでもないのに。


 夕飯の時もみんな静かで、何を話していいかよくわからないようだった。平岸ママは『戻ってきた時のために部屋はそのままにしておく』と言っていたけど、あかねが小声で『無駄』と言ったのを私は聞き逃さなかった。ヨギナミは何も言わない。

 みんな、なんとなく察しているのだ。

 もう、希望は無さそうだということを。

 

 部屋に戻ったら奈々子が出てきて、こう言った。


 前に新道先生が言ってた。いつかこうなるだろうって。

 急にいなくなるだろうけど驚かないようにって。

 先生の言ったとおりになった。


 奈々子は不安そうにしていた。唯一の相談相手がいなくなってしまったからだろう。

 仕方がない。私はこう言った。


 これからは、相談ごとは私にしなよ。


 奈々子は驚いたのか目をぱちぱちさせた(幽霊なのに)。


 聞ける範囲で聞いてあげるから。


 すると、奈々子はちょっと間を置いてから、


 ありがとう。


 と言って消えた。何か言ってくるかと思ってたのにあっさり消えられたのでちょっとつまらないなと思った。長々と愚痴られても困るけど。

 修平と新道がいなくなった。

 ということは、幽霊問題は私と奈々子と所長と橋本でなんとかするしかないということだ。

 それがきっと、修平と新道のためにもなる。

 今思うと、修平は幽霊のためにいろいろ動いてくれてたし、ふざけた性格してたけど、この問題に関してはずっと真面目に考えてたな。

 もっとまともに話し合っておけばよかった。

 見た目がカッパだからウザい奴扱いしてしまって。

 本当に悪かったと思ってる。もう遅いかもしれないけど。




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