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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年9月

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2017.9.23 月曜日 祝日 サキの日記

 明日は試験なのにまるで勉強する気がしない。朝起きるのだるくてゴロゴロしてたらあかねに怒鳴り込まれた。朝食食べてからも何もする気しなくてテレビの間でスマホ見てたら平岸ママに『勉強しなくて大丈夫?』と言われたので、アプリでやってると言い訳した。本当は全く別の動画見てたけど。

 結局私は研究所に行った。

 所長はまだ帰ってない。どこ行ったんだろう。猫達を置いて。

 結城さんもいない。

 私はかま猫に遊んでもらって、勝手に冷蔵庫のアイスを食べて、テレビ見てぼーっとしていた。結城さんはいつも一人でテレビを見ながら何を考えてるんだろう?アイドルのこと?エッチなこと?それはちょっと嫌だな。

 研究所に一人でいたら、また、自分が世界でひとりぼっちみたいな感じがしてきた。この建物だけ別な次元にあるんじゃないだろうかと思うような。

 私は猫達にエサをやって、すぐ平岸家に帰った。平岸ママがキッチンにいて、平岸パパが皿を取り出していた。いつもの光景だ。少し安心した。

 平岸ママはチョコタルトを焼いていた。切り分けるとすぐ、一切れをヨギナミのお母さんの遺骨と写真の前に置きに行って、手を合わせていた。亡くなった親友のことをとても大事にしているらしい。ここで手を合わせている姿をよく見かけるようになった。

 ヨギナミには変化がない。一番当事者なのに驚くほど変わらない。佐加の方が時々思い出して『ヨギママ』の思い出話を始めて涙ぐむことが多いくらいで、その時もヨギナミは黙って聞いてるだけ。どっちが母を亡くしたんだかわからない。

 死んだ人の存在が、まだこの家にある。それが行きている者の行動を変えている。私はこれをどうとらえたらいいのか、よくわからない。

 人はいずれ死ぬ──でも、それってどういうことだろう?

 深く考えられそうだと思った時に、あかねのキンキンした声に邪魔された。『よその女の遺骨をいつまでうちに置いておく気だ』と言い出して、平岸ママとケンカしてた。ヨギナミは『ここを出る時に持っていきますから』と言う。卒業して一人暮らしをするようになっても、母の遺骨を持ち歩く気なんだろうか。家族だから?

 死んだ母親がどこまでもつきまとってくる。

 それはちょっと怖いと思う。


 私は部屋に戻ってから、自分の親が死んだらどうなるだろうと考えた。でも、思考はすぐに別な所に飛んでいった。所長に『いつ帰るんですか?』結城さんに『どこにいるんですか?』と聞き、自分ウザいなと思いながら明日の英語の勉強をした。

 生きているものは前に進まないといけないのだ。

 3人の幽霊のこともちらっと頭をよぎったけど、なるべく考えないことにした。考えすぎると怖いから。いつまでも付きまとわれそうで。

 とにかく今は試験勉強しないと。




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