2017.9.15 金曜日 サキの日記
物事は時間とともに変わっていく。それは誰もが知っている。だけど、私はなぜか、所長だけは絶対に変わらないだろうと思っていたらしい。
もちろん、そんなことはない。所長だって変わっていく。昔ほど不安定ではなくなった。最近はとても穏やかに過ごせていて、やっと自分を取り戻した感じがするらしい。
それはいいことなんだと思う。
なのに、私はなぜ落ち着かないんだろう?
明日(今日の夕方)、所長のご両親が来る。
それを佐加達に言ったら、
親公認の仲になっちゃえば〜?
とからかわれた。だから私と所長はそういうのじゃないって言ってるのに。
とにかく、所長は長く離れていた育ての親と和解して、神戸に帰ろうとしている。
私はそれが──たぶん、気に入らない。
所長には草原が似合うし、ずっと研究所にいてほしかった。
でもそれは勝手な言い分だ。私だって3月には東京に帰る。
また朝、Jアラート。
北朝鮮ほんとやめてほしい。
今日は学校は休みにならなかった。大学の願書を出したり、伊藤ちゃんが東京の大学を見に行って欠席。今さら?って思うけど、住む予定の街を探すという目的もあるらしい。山手線の近くは家賃高くて無理そうとか、そういえば前に言ってたような気がする。
私も大学からは一人暮らししたい。
でも、地元の大学に行くのに『家出たい』って言って、親が許してくれるかどうか。やっぱ生活費はバイトで稼がないとダメかな。でも、大学の勉強と両立できる?
私は東京のバイト求人を見て、どれくらい働かないと暮らせないか計算し──悲しくなってきた。無理だ。こんなに働いてたら勉強する時間も本を読む時間もない。でも、働きながら大学行ってる人は現実にいる。奨学金?親(父)にその話したら、
うちはそんなの申し込む必要ないよ。
こんなこと言うのもなんだが、俺も由希もめったに帰ってこないんだから、あのマンションに住んでても一人暮らしと大して変わんないんじゃない?
いや、違う。いつバカピョンと妙子(やっぱり言っちゃう)が返ってくるかわからないマンションでは暮らしたくない。しかし、
本気で探せば安いところはあるけどさあ、六畳一間で風呂トイレ共同とかになるぞ。ヤローが一人で住むならともかく、娘をそんなとこに住まわせるのは俺は嫌だね。
一人暮らし計画は難航しそうだ。母にも『一人暮らししたい』って送ったんだけど、ロケ中なのか返事が来ない。
ヨギナミはまたバイトの面接に行った。隣町。でも、介護の資格がどうとか言われてダメだったらしい。
ヨギナミを見てると、何でも親に出してもらってる自分が恥ずかしくなる。だけど、自分で生活費を稼ぐのは無理っぽい。少なくともバイトでは無理。
親とYouTubeやればいいじゃん。絶対稼げるって。
勇気に言われてペンケースぶん投げそうになった。それは絶対嫌だ。インターネット上に姿を出すとろくなことが起きないって知ってるくせに。
私はまだ、あの炎上事件が怖い。
『いいかげんツイッターやりなよ』『インスタならよくね?』と佐加に週3回は言われてるけど、やっぱりまだ怖い。文章書ける所は欲しいので、人知れずブログを書こうかとも思ったけど、『ブログ?今どき?』とか言われる。みんなは動画の時代を生きている。
私が文章を書く意味って何?
自分を落ち着かせること以外に。
誰も読まない文章を書き続ける意味。
自分の存在を自分で確認すること、だろうか。それを動画でやってる人もいるし、イラストとか芸術作品でやってる人もいる。私は文章しか書けない。他にできることがないんだから、これしかない。
でも、これで生活費は稼げない。
久しぶりにカントクに連絡したら、
一人でよく考えなさい。
今はその時期ヨ。
と突っぱねられ、ついでに、
シナリオはいつになったら書けるの?
楽しみにしてたのに全然送ってこないんだもの。
と、余計なことを思い出させてしまった。
文章で生きるにはまず『ちゃんとした作品』を作らなきゃいけないんだっけ。できる人は小学校とか中学校の時にもう『作品』を作ってる。私もきっと、とりとめのない日記じゃなくて『作品』を書くべきなのだ。
でも、何を書けばいい?
事件のことは書きたくない。
所長のことを書いたら怒られるのかな。草原にたたずむ純粋な少年のイメージ。でも実際は──いや、だめだ。怒られそうだし失礼だ。私だって自分のことを創作ネタにはされたくない。所長だって嫌だろう。
私はあかねとは違う。他人のことを安易に作品のネタにしたくない。
あーでもそしたら何を書けばいいんだ!?
『何を書けばいいかわかんなくて悩んでる人の話』?
誰がそんなもん読むんだ。エンタメ的には面白くない。
ダメだ。『面白いこと』を書こうとすると行き詰まる。私の人生に楽しいことあんまりないし。私たぶんエンタメ向いてない。
どうしたらいいんだ。




