2023.9.4 月曜日 サキの日記
河合先生が『もうすぐ試験だぞ〜』と呼びかけ始めた。
今日も心は結城さんと所長のことでモヤモヤ。恋とか愛のことを考えていたら、連想ゲームのように性犯罪の話とか昔の炎上のことを思い出してまた怖くなったりした。
思考が勝手に変な所に飛んでいく。
しかも今日、お弁当がキャラ弁だった。
あかねが平岸ママに『ママはこういうの作れないわよね〜』とニヤニヤしながら、アニメキャラの弁当の画像を見せてしまったのだ。
平岸ママの座右の銘は『私に作れないものはない』なので、今日のお弁当はあかねが描いたような男の子キャラの顔になっていた。修平は見た瞬間に食欲がなくなったらしく、『あげる』と言われたので私が2人分のキャラ弁を食うはめになった。あかねは喜んでみんなに見せびらかして、教室は爆笑に包まれたけど、ヨギナミは『いつものからあけとかコロッケの方がいいねえ』と言っていた。私も同じ意見だ。
明日もキャラ弁だったらどうしよう?
私の好きなミニハンバーグやエビフライはどこへ行った?
もう一つモヤッとしているのが、朝、奈々子が出てきて、
しばらく歌のレッスンはやめるね。
と言ったこと。
創くんがいる時に、
あなたがナギと冷静に話すべきだと思う。
ナギの態度はよくないから、私説教したいくらいなんだけど、余計なことしそうだからやめとく。
一方的にそう言って、私の意見は聞かずに消えた。
何なの?
それについて昼休みに佐加やヨギナミ、あかねと話し合ったら、みんな『結城さんとサキをくっつけたいんだと思う』と言った。
それで結城さんとサキが幸せになったらさ〜、
奈々子も安心してあの世に行けんじゃね?
佐加が言った。そうなんだろうか。
でも私は、奈々子なしで結城さんに会うのが怖い。冷たそうだし。ていうか今まで実際私には冷たかった。ずっと拒絶されてる気がする。仮に奈々子が私と結城さんをくっつけたがっているとしても、たぶん結城さんはそうしたいとは思っていない。
結城さんが好きなのは、あくまで奈々子だ。
それはもうわかっているくせに、奈々子は何を考えているんだろう?
今日は杉浦塾があったので研究所には行かなかった。弁当を食べれなかった修平のために、奈良崎がやきそば弁当を買ってきていた。やっぱ優しいな、奈良崎。
勇気は今日来てなかったけど、クラスの男子の誰かを好きになれてたら、こんなに苦しまなくて済んだのになと思う。みんないい奴だし。
そういえば、伊藤ちゃんに告らないのって奈良崎に聞いたら『いや〜無理無理!』とものすごい勢いで首を横に振られた。伊藤ちゃんも何考えてるかよくわからないな。カッパのことは振るし。今日来てなかったけど、やっぱり修平と会うのが気まずいんだろうか。
杉浦はあいかわらず、人が少しでも動きを止めていると『何がわからない所でもあるのかね』と言ってきて、正確だけど長くてウザい説明をする。真面目に聞いているのはヨギナミだけで、他の人は杉浦の説明を聞いていたら、だんだん目が細くなってきて、最後にはカクッとなる。
そして、
人が説明をしているときに寝落ちとはどういうことかね!?
いいかい、学問というものは、まず人の話を聞くことから──
さらにウザい説教にさらされる。すると今度は怒られている当人だけでなく、周りの人もテーブルの上に突っ伏したり、隣の人に叩かれても起きなくなったりして、集団催眠状態に陥る。杉浦はますますキレて、
良質な音楽を聴いて目を覚ましたまえ!
とか叫んで、昭和レトロなレコードプレーヤーで、なぜか吉幾三を流しだす。寝ていた奈良崎がむくっと起き上がり、
これ、うちの親父がカラオケでよく歌ってるやつ!
と叫んで、
こんな塾嫌だ〜!!
と歌い出す。それにつられてみんなが『こんな塾嫌だ〜』を歌い出したので、スネた杉浦はどっかに行ってしまう。
ヨギナミが探しに行き、自分の部屋でいじけているのを発見。
『僕の情熱は誰にも理解されない』って言ってる。
と戻ってきたヨギナミが言ったので、またみんなで爆笑。その後杉浦は出かけて戻ってこなかったので、平岸パパが迎えに来るまでは静かに勉強できた。
杉浦って何がしたいんだろう?
人に教えることで自己顕示欲を満たしたいタイプなのか?迷惑な。
バカみたいだけど今日楽しかったな。友達っていいよな。
所長や結城さんとも友達でいたかった。
恋とか愛の話がなければ、きっと楽しく過ごせたのに。
今また自分の部屋で、2人のことを考えてもんもんとしてる。
性欲を感じるのは結城さんだ。所長にはそれがない。
でも所長には、なんでも受け止めてくれるほんわりした感じがあって、一緒にいると安心できる。自分が苦労していろいろ悲しい思いをしたから、人の苦しみもわかるんだろう。
私が好きなのはどっち?
やっぱ両方?
それはよくないよね。
どうしたらいいんだろう?
所長は私を好きだけど、結城さんは私が嫌い。
なら所長を選ぶべきだ。
でも私はなぜかそれはできないと感じる。
やっぱり友達でいたいのかな?
友達として好きなだけかな?




