2015.11.16 研究所
夜。
床についた久方が半分眠りかけたころ、目の前を黒い何かが横切っているのが見えた。部屋は暗かったが、なぜかはっきりと見えた。シーツの白とうごめく黒のコントラストが。
蜘蛛。
前に結城の部屋にいたのと同じような大きな蜘蛛が、こんどは久方の枕の横を這っていた。久方はその黒いのが移動するのを半目で見ながら、昔読んだ本の内容を思い出していた。ある男が虫に変わってしまって、家族に嫌われる話だ。細かいところは覚えてないが。
僕の仲間かもしれない。
暗い着想とともに久方は起き上がり、蜘蛛を本の上に誘導すると、部屋を出て結城の部屋の前に下ろし、ドアをノックして自分の部屋に逃げ込んだ。
キャアアアアアアア!!
愉快な悲鳴と、床を踏みまくる音がしばらく続いたのち、階段をかけ降りる音がした……が、すぐに戻ってきて、床をモップがけしている音が聞こえ始めた。かなり必死に。
久方は毛布の下で、声を殺すのに苦労しながら狂ったように笑い転げていた。
今日はいい夢が見れそうだ。明日起きたら虫になってるかもしれないが、今の人生だって惨めなことに変わりはない。だんだんどうでもよくなってきた。
笑い疲れたせいか、久方はいつもより早く眠りに落ちていった。




