表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年11月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/1131

2015.11.15 秋倉の草原


 夜の曇り空、星も当然見えない。

 微かに雨の粒が当たるのも感じる。

 何故だろう。こんな寒いところにいるのに、

 いつもより今の状態のほうが、自分に馴染んでいるように思えるのは。






 久方創は、草原の真ん中で、マフラーとフードを両手で押さえながら震えていた。今時期は雪のほうがありがたいのだが、今日はなぜか小雨だ。降ったりやんだりを繰り返している。


 あたりは本当に真っ暗で、建物も明かりもない。まるで別な空間に迷いこんだかのようだ。

何かが見つかるという確証はないが、探してみたくなる……どこかで見落としたものを、無くした何かを。


 久方は少しずつ、闇の中へ進んでいった。

 足元に草の感触がする。

 雨粒が顔や手に当たるのを感じる。


 この感覚は自分のものだ。

 誰にも渡せない。










 舗装された道にぶつかった。目がなれてきた。


 そこは別空間ではなく、いつもの秋倉の草原だった。


 急に我に返った久方は、あたりを何度も見回したが、もちろん何も見つからなかった。一体自分は今何を探していたのだろう?何を考えていたのだろう?

 引き返すことにした。また自分が凍えているのを忘れていた。震えながら早足で歩いた。



 戻っても、また助手がピアノ弾いてるなあ……。



 建物に続く林の道に入ると、もう聴こえてきた。何の曲だか知らないが、夜中に聴きたくない怖い音であることは確かだ。戦争の鎮魂歌かもしれない。

 助手が夜中にピアノを弾くのは珍しい。いつもなら、朝か、3時に攻撃を仕掛けてくるのだが。



 出かけた先で何かあったのかな……。



 後で聞いてみようと久方は思った。言葉がちゃんと口から出せればの話だが。

 いっそ、言葉のない感覚だけの世界にいたほうが楽なのかもしれない。ここに来てからはいつも、空や雲や、植物を眺めて、無言で過ごす時間が一番安らいでいた。さっき暗闇で自分が探していたものも、それかもしれない。


 しかし、ここは人が住む町だ。

 しかも変人の町なのだ。

 全く人と関わらずに過ごすことはできないし、そんなことは望んでもいない。

 新橋早紀がいてくれればと思った。早紀が相手だと、なぜか言葉が出やすい。年下だからだろうか。

 でもなぜ他の学生(特に平岸あかね)は怖いのに、早紀は平気なのだろう?



 一階の廊下を歩いていると、ポット君が近寄ってきた。一緒にキッチンに行った。ピアノはまだ聞こえている。



 あいつは何を考えてるんだろうなあ。



 コーヒーを飲みながらつぶやくと、ポット君が『なんのこと?』という顔を表示した。



 助手のピアノ。



 と答えた瞬間、あからさまに苦々しい表情に変化した。


 ロボットは素直でいい。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ