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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年8月
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2015.8.24 サキの日記


 本当のことには、誰も興味がないのだ。





 夜中に起きた私の頭はこんな考えで一杯。体は動かず、半分寝ててろくに目も開かないのに、頭に浮かんだその考えだけが、はっきりと覚醒して、昼間公園で遊ぶ子供みたいに、私にはないはずの生気を持って跳ね回る。



 誰も事実など知りたくはないのだ。



 夜中2時。眠れないから起きて宿題をやることにした。数学は嫌いだし、中学校の問題もたぶん解けない。

 でも、学校に行かなくてすむなら、

 二度と、一生人前に出ずに済むなら、

 宿題なんて大したことじゃない。



 もう学校には行かないだろうという気がしていた。もう行くべきじゃない。

 でも、きっと行ってしまうだろうなあという気もする。


 海外には子供を学校に行かせず、家で教育する親もいるのだから、なぜ私がそうしてはいけないのだろう。

 うちのバカ(父)は私には甘いから、話せばそうしてくれるかもしれない、奴に私を教育する頭がないのは明らかだが(私がバカ呼ばわりすると『バッカピョーン』と言ってキモい白目笑いを浮かべながら部屋を跳ね回るのだ、家でも舞台でも、テレビ番組でも)私は自分に興味のあることなら先生がいなくても勝手に学べる。それがダメなら転校とか。


 問題は、私が言い出せないことなのだ。



 先生は悪い人ではないが、生徒の悪口や無視を止める力はない。注意したその場ではいい子のふりして謝っても、先生がいなくなった瞬間にもうアウト。おめーのせいでアタシがやな目にあった!お前のせいで俺が恥かいた。



 私のせいじゃねーよ。



 言いたかったが言えなかった。しかも、奴らにそういう理不尽なことを言われているその場では、私の欠陥のせいでみんなに迷惑をかけているのだから私が悪いような気がしてしまうのだ。


 カフカ的。

 私は登校拒否をしてるときにカフカを読んで、同じタイプかもしれないと思った。でも、怖くなったのでそれ以来手に取ってない。

 何も悪いことをしていないのに責められるなんて間違ってる。

 わかっているのに、どこか心臓の隅の辺りに『私はおかしい』という意識がくすぶっていて、まわりの非難は当たり前のような気がしてしまう。


 はっきり言うべきだった。相手が怒るのが怖いから、そのあとに起こることが怖いから。

 でも、こちらをゴミ程度にしか思っていないような人が怒ったからって、それが何だと言うんだろう。



 みんなも私も、真実を見ていない。自分の見たいものだけを見ている。自分に都合のいいことだけを拾って、逃したものの重要さに思い至らない。


 前にも似たようなことを考えた。それも何度も。

 まるで無限ループのように、一度起きたことや考えたことが何度も甦り、平気で何時間も奪っていく。








 眠らずに朝ごはんの時間になった。

 平岸家の朝は、夜中に考えていたような事とは全く無縁だった。窓からは美しい朝日がよく手入れされた鉢植えを照らし、テーブルにはご飯と味噌汁と卵焼きと漬物。野菜はもちろん平岸ママが育てたものだ。平岸パパは日経新聞を広げている。いい加減新聞を閉じて食べなさいと注意されながら。あかねは黙ってごはんを口に運んでいる。


 色の濃い味噌の味。

 平和な光景。

 別世界に迷い込んだよう。






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