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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年7月

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2017.7.30 日曜日 サキの日記

 せっかく札幌に行ったのに、天気はどんよりだった。でも佐加は全く気にしていなかった。店で服を見られればいいからだ。あかねも何も気にしていなかった。ゲーセンで目当てのグッズを釣って、アニメイトでマンガ買うことしか考えてないからだ。

 結城さんのマンションに行ってみたけど、いなかった。インターホン鳴らしても出ない。出かけているのか、居留守を使っているのか。前一緒に行ったカフェにも行ってみたけど、あの知り合いのゲイみたいなおじさんはいなかった。

 結城さん、どこ行ったんだろう?

 誰と会ってるの?

 仕方ないので佐加に付き合ってパルコへ行き、服や小物を見て回った。佐加はやたらに私に服を買わせたがる。自分の服選びなよって言ったら『サキの方が似合う』と。あかねまで『youtuberとかやってみればいいのに』とか言い出した。動画撮られるの嫌だから無理って言っといた。

 あんまり目立つようなことはしたくない。

 あかねに付き合ってアニメイトと、中古のフィギュアを扱ってるお店に行ったけど、男性向けの18禁止みたいなヌードのフィギュアも置いてあって、めっちゃ気持ち悪かったので外に出てた。あかねは慣れてしまっているのかそういうの全然気にしてないようで、


 かわいいと思って買った古い魔女のフィギュアが、18禁エロゲームのキャラでびっくりした。


 なんて平気で言う。ついていけない。

 ゲーセンであかねがグッズ釣りに夢中になっている間、私と佐加はリアルにかわいいリングが入ったキャッチャーに張り付いていた。佐加が先に一個釣ったんだけど、おもちゃなのにほんとにキラキラした石がついててかわいい。私も欲しくなってかなりがんばって一個取った。あかねに見せたら『店で買った方がまともなアクセサリーが安く買えるのに』と言われた。自分はどうなんだと言ったら『このグッズはこのゲームでしか手に入らないの!』と言われた。あかねもかなり釣ったんだけど、いくら使ったのかは怖くて聞けない。

 外に行きたくなったので地下から大通公園に出た。休んだり散歩したりしてる人がけっこう多い。

 あかねと佐加がよく知らない芸能人やyoutuberの話をしている間、私は結城さんのことばかり考えていた。どこにいるかLINEで聞いてみようかと思ったけど、ウザいと思われたら嫌だからやめた。所長は今日、家族で温泉に行っているらしい。ヨギナミのことはまだ話せない。

 そうだ、ヨギナミの誕生日プレゼントを買わないと。

 あかねに『そんなものいらないって』と嫌な顔をされつつ、私と佐加は地下街でプレゼントになりそうなものを探した。あかねがパワーストーンの店を見つけて『これでいいんじゃない?あの子運悪そうだし』と言ったけどスルーした。結局私達はパルコに戻って、ヨギナミに合うサイズのワンピースを佐加と一緒に買った。『ヨギナミはもっとかわいい服を着るべき』と佐加は言った。私もそう思う。

 夕方に平岸パパが合流して、狸小路の、昔からあるレストランに行った。佐加が『ステーキ!ステーキ!』と騒いであかねに『静かにしなさい』と言われていた。なぜかあかねは機嫌が悪くて、怒ったときの平岸ママみたいな態度をしていた。平岸パパは『このへんも再開発でかなり変わるなあ』と、昔と今の違いをいろいろ語っていた。それがあかねにはウザかったのかもしれない。

 結局、結城さんには会えなかった。

 どこ行ったんだろうってぼやいてたら平岸パパが、


 今頃すすきので遊んでんじゃないの?


 と言った。それは嫌だなと思った。好きな人には、そういう夜の世界とは関係ない所にいてほしい。そう思うのはおかしなことじゃないはず。

 そういえば、奈々子はどうして夜、狸小路をさまよっていたのか。

 そこに路上ミュージシャンがいたからか。

 修二とか。

 今はもう、そういう人達の居場所はない。

 もしかしたら、単に歩きたかっただけかもしれない。散歩は思考を活性化させるから。当時の女子高生達は、流行とか援交とかそんなものとは関係なく、ただ『歩きたくて』街に来ていただけかもしれない。少なくとも真面目な子は。それを変な取り上げ方したのは大人の方だ。

 私はみんなに頼んで、一緒に狸小路を歩いてもらった。


 私が歩いていた頃より、ずっと人が多くてにぎやか。


 奈々子が言った。


 観光客が増えたんだね。昔はこんなに人はいなかった。

 今は騒がしすぎる。


 声はそこで途絶えた。


 札幌は変わっていくなァ。


 平岸パパがつぶやいた。

 変わらないものなんてない。

 当たり前だと思っていた街の風景も、時間と共に変わる。

 私が知っている場所も、これからどんどん変わっていく。私はその変化の最中にいる。商店街を歩く人達が、まるで、別次元に向かって歩いているかのように見えた。道がどこまでも真っ直ぐなせいかもしれない。

 結城さんは、この街で、何を思って過ごしていたのか。

 それが知りたいのに、どうしてどこにもいないんだろう。

 時空の狭間にでも落ちてしまったんだろうか。







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