2017.7.19 水曜日 サキの日記
佐加の誕生日が近いので、ヨギナミと一緒にプレゼントを買いに行くことになった。今年は共同ではなくそれぞれ1つずつ買うことにした。でも、布地は去年プレゼントしたし、今年何にしたらいいかなかなか決まらなかった。2時間くらいショッピングモールをうろうろして、いろんなものに目移りして、結局、私はスカート、ヨギナミはそれに合う柄のポーチを買った。
それから平岸パパと一緒にとんかつの店に入ったんだけど、そこでヨギナミから、昨日橋本と話していたことを聞いた。
『何があっても、人生に絶望するな』
と奴は言ったそうだ。自分は死んだくせに。
おっさん、自分には世界が少ししか見えてなかった、みたいなことも言ってたよ。
ヨギナミが言った。
たぶん、ネットもなかったし、自分の人生に起きたことでしか世界を判断できなかったってことじゃないかな。おっさんは自分が一番不幸だと思ってたって前に言ってたから──
自分の不幸で世界が全部真っ暗に見える?
そういうことだと思う。
なんとなくわかる気がした。私だって、あの事件が起きた時はそれだけで頭がいっぱいで他のことなんか考えられなくて、人生終わったと思っていた。1つの不幸で全体が塗りつぶされるとそうなる。
でも、世界はそれだけじゃない。
学生の頃はなあ、学校や友達のことが全てだと思いがちなんだよなあ。
平岸パパが言った。
でも他にもいくらでも世界はあるし、ぶっちゃけさあ、学生時代の友達なんて、大人になったらほとんど会わなくなるんだよ。何をそんなに気を遣ったり気にしたりしてたのかなァって、今は思うけどね。
平岸パパ、うちのバカと同じ高校ですよね?
あ〜、新橋は元から誰にも気を遣ってなかったなァ。
昔からあのまんまだよ。アハハハハ。
バカが学生時代から成長していないことを確認した。
でね、おっさんは『俺はそれで失敗した』って言ってたんだよね。
ヨギナミが言った。
やっぱ自殺じゃない?人生に絶望して。
そうなのかな?
そうだと思うよ。
死んだ人の話をこれ以上したくなかったので、私は『これから受験勉強だ、どうしよう』みたいな話したけど、あまり会話は弾まなかった。なので、『杉浦のこと本気で好きなの?』と聞いてみたら、ヨギナミの顔が真っ赤になり、平岸パパが『ウハハ!』と変な笑い声をあげた。
告白とかしないの?
だって杉浦って恋愛にも私にも興味ないもん。
告白されたら意識するかもよ。いくらホソマユでも。
無理。サキこそ所長さんをどうするの?
どうするって?
所長さん、サキのこと好きでしょ?
でも私は結城さんが好きなの。
うまくいかないなあ。所長さんの方が絶対合うのに。
ヨギナミこそなんであんな古典オタクが好きなの?
杉浦は変人だけど優しいもん。
ヨギナミは子供っぽい声で言ってから、
サキ、結城さんと付き合えると思う?
と聞いてきた。
やってみなきゃわかんないじゃん。
と言ってはみたけど、もちろん自信なんてない。結城さんが好きなのは奈々子だし、でも奈々子は死んでるし、結城さんには別な女が必要だ。なら、その女が私であっていけないはずはない。
ヨギナミは帰りの車でも『所長さんの方がいいのに』と何度もつぶやき攻撃をしてきたので、私も『ホソマユはやめとけ』と同じ回数ささやき返してやった。
アパートに着くと、ヨギナミは鍵を回収して、また、
所長さんのことも考えてあげてね。
と言って去った。意外としつこいな、ヨギナミ。
私だって所長のことは心配してる。気持ちだってわかってるつもり。でも私が好きなのは結城さんなんだから仕方ない。もう、だいぶ前からわかっていたことじゃないか。
でも悲しい。今まで何でも話せていた所長と、今、気まずくなってる。昨日も話したけどなんだか上の空というか、どうしていいかわからないような様子だった(橋本に無理やり連れてこられたせいもあるかもしれない)。
明日研究所に行ってみようかな。でも、木曜だから保坂いるな。金曜にしよう。ちょうど終業式で、夏休みが始まる。
うわあ!もう今年夏休みなんだ!
高校生活最後の夏休み。どうしよう何しよう?
って、受験生だからまずは勉強だけど。




