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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年7月

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2017.7.10 月曜日 サキの日記

 学校祭の準備期間。なのに結城さんのことで頭がいっぱい。朝にLINEでおはようございますって送ったらスルーされた。でも見てはいる。

 佐加に一緒に服買いに行こうって言ったら『うち今月金ない』と言いながらもOKしてくれた。ヨギナミも連れて行く。バイトは本格的にやめることになってしまったらしく、とても落ち込んでいる。他にないのって聞いたら『ない』と即答された。小さな町だから仕事の求人自体がほぼなくて、去年やった夏の市場バイトくらいしかなさそうだと。私は今年は行かないと決めてる。でも佐加は行きたいらしい。あくまでお金のために。

 帰りに、佐加が藤木を連れて近づいてきて、


 辰巳がサキにお願いがあるんだって。


 と言ったので何かと思ったら、


 お前の髪を切らせてくれ。


 と言われてめっちゃびっくり。伸びっぱなしになってるのが気になっていたらしい。そういえば、秋倉に来てから一度も切りに行ってない。肩の上くらいで揃えるだけならいいよと言ったら、そのまま浜まで連れて行かれて藤木の店に行った。

 ヘアサロンふじきの席についてから、

『男の子に髪触られるんだ!』

 と気づいてドキドキした。でも、藤木は佐加や自分の妹の髪をよく切ってあげているらしく、慣れていた。


 手に職があるっていいよね。


 私は自分の髪を切る藤木を見ながらつぶやいた。


 私、得意なことが何もない。


 これから見つければいいじゃん。


 近くで見ていた佐加が笑って言った。

 でも私は見つける自信がない。

 少し短めにした方がいいと藤木が言ったのでまかせた。かわいめのボブになった。藤木、才能あるんじゃないって言ったら、


 こんなのは基本だ。


 と謙遜された。藤木のお母さんの勧めで、なぜか佐加も一緒に藤木家で夕ごはん食べることになってしまった。刺し身が大量に乗った大皿が出てきたので写真撮った。藤木の家は三世代で、おじいさん、おばあさん、妹(あまり似ていない)、父、母の6人家族+佐加だ。

 佐加はもう家族の一員と見なされているらしく、全員に美月と呼ばれていた。おじいさんにあの2人仲いいですねと言ったら、


 あの2人はもう夫婦だべ。


 と真顔で言われたのでキャーと叫んでしまった。でも、佐加って確かアパレルで働きたいから都会行くとか言ってなかったっけ?実家を継ぐ藤木とどうやって付き合い続ける気なんだろう?


 夕飯の片付けが終わった頃に平岸パパが迎えに来て、髪を見て、


 おっ!かわいくなったね!


 と言ってくれた。私は新しい髪型を結城さんに見せつけたかったので、写真送ろうかと思ったけど、直接会ったほうがいいと思ってやめておいた。あかねもヨギナミも『似合う』と言ってくれたが、修平は無反応。きっとカッパだから人間の髪のことはわからないのだろう。


 部屋に戻ってから、私は奈々子を呼んだ。


 ほんとに私と結城さんが付き合えると思ってる?


 私は尋ねた。


 私は、ナギに変わってほしいの。


 奈々子は言った。

 

 それには、やっぱり生きている人と接した方がいいと思うの。

 死んだ思い出の人にこだわるんじゃなく。


 あんたはそれで悲しくないの?


 悲しいよ。


 奈々子は切なそうな顔で言った。


 本当に悲しい。でも私は、とっくの昔にいなくなっていたはずの人でしょ?


 でも、修平は『幽霊に生き直させるべき』とか言ってたよね?

 だとしたら、あんたも結城さんに対する想いをなんとかするべきじゃない?

 あんまり仲良くなってほしくないけど、無視するのは無理だよ。

 本当はどうしたい?


 私は尋ねた。奈々子は少し考えてから、


 心から理解されたい。


 と答えた。


 それってどういうこと?


 自分でもよくわからない。


 奈々子はそう言って消えてしまった。また謎だけが残された。私は心配になってきた。やっぱりステージで歌うだけじゃ満足しなくて、『ナギと結ばれたい』とか言い出すんじゃないだろうか。

 それは困る。

 明日結城さんに新しい髪型を見せに行こうかな。結城さんにスルーされても、所長は気づいてくれるだろう。いや、平日は行かないって決めてたんだっけ。つい忘れて研究所に行きたくなる。前はもっと気軽に行けたのに。

 所長、私がいなくてさみしがってたりするのかな?

 ちょっと悪いなって思う。

 でも、付き合ってあげることはできないし。





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