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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年6月

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2017.6.29 サキの日記 あかねの誕生日


 18よ!18禁よ!ウォホーゥ!!


 あかねのすっさまじい叫び声が廊下から聞こえてきて飛び起きた。時計を見たらまだ朝の4時47分だった。きっと目が覚めた瞬間に走り出したに違いない。


 今日から何でも描き放題よ!

 何描いてもいいのよ!

 フォーゥ!!


 変態は叫びながら走り去って行った。

 起きたばっかで何が何だかわからずベッドで止まってたら、スマホが鳴った。


 俺今日、部屋にこもっててもいい?


 修平からだった。『諦めて出てこい』と返事してから、今日に備えてコーヒーを入れて飲んだ。



 お金持ちのマダムが美少年を集めて逆ハーレムを作るの。そしたら、集められた美少年同士がことごとく恋に落ちちゃって、官能と嫉妬が渦巻く館の中で、マダムは優雅に楽しむのよ。美少年達が戯れるのを。

 ウフフフフフフフフフフフフフフフフ──


 朝食時、既に妄想は暴走していた。


 あのなあ、俺が朝から美少女を集めたハーレムの話したらお前らどう思う?


 修平が言ったのでヨギナミと2人で『やだー!』『カッパが汚い!』とか言ってやったら、


 だったらあかねのエロ話も止めろよ!!


 と叫ばれた。確かに。

 平岸パパとママは揃って『学校でそういう話はしないように』『不快に思う人もいるんだから』と真面目に注意していた。しかし、あかねは、


 表現の自由!フォー!


 全く聞いていなかった。

 でも、学校ではさすがにエロ話しない方がいいと思ったのか、佐加と話していたのは今後のコスプレ計画だった。『アタシの肉体美を生かして』原作に忠実なコスプレがしたいとかどうとか。『そのうち警察に捕まるよマジで』と佐加が言っていた。

 授業中、私はできるだけ何も考えないようにしていた。じゃないと、また余計なことを思い出してしまうからだ。はた目にはじっと座っているようにしか見えなくても、頭の中ではいろんなことが起きている。前の学校を思い出して胸がドキドキして、落ち着くまでに30分くらいかかった。結城さんや所長のことを思い出した。ニューヨークにいるリオを訪ねてみようかと考えたり、昨日ネットで見つけた古本を買おうかどうか迷ったり──全然、今に集中できずに、時間が過ぎていく。

 昼休み、学校祭で使うソファーとテーブルを調整してたら、あかねが、

 

 学祭でイラスト展やってもいい?

 今まで作ったものがたまって──


 ダメ!!


 クラス全員が同時に叫んだので、あかねは黙った。ちょっとかわいそうになったので、大人しか入れない別な所で個展したら?と言っといた。

 私にはあかねがよくわからない。どうして18禁が怖いと思わないんだろう?どうしても、畠山が見てたようなおぞましいポルノを連想してしまう。私は18になっても絶対そういうの見ないことにする。精神衛生によくない。

 あかねが平気なのは、二次元の男の子しか扱ってないからだと思う。性的欲求の対象が女の子で、自分が同じ目にあうかもしれないと思ったら、そんなものとても見られないはずなのだ。残酷な人の共通点は『自分も同じ目にあうかも』とは夢にも思わずに暴力を消費している点にある、と私は思う──いや、別に、あかねが残酷だと言いたいわけじゃないけど。

 帰り、一人になりたかったのにあかねが追いかけてきて、東京で何かいいイベント会場を知らないかと聞かれた。私はガイドじゃないしオタクでもないからわからないと答えたら、


 せっかくいい所に生まれたんだから利用しなさいよ。


 と言われた。余計なお世話だ。

 あかねは(みんなからのネガティブな反応にもかかわらず)未来に希望がいっぱいのようで、マンガが持つ可能性について、平岸家に着くまで延々と語られた。あかねにとっては、日本でメインなのはマンガやアニメであって、他のものはマイナーなのだ。


 日本ではもう、活字のほうがサブカルチャーよ。

 メインはマンガとアニメなの!


 とあかねは言った。私は、海外の真面目な人が『マンガは表現が極端だからよくない』と言っているのを聞いたことがあるけど、黙っていた。日本のテレビによく出てくるのは『アニメ大好き!』みたいな外国人だ。でも実際は、他の国の学生はちゃんと活字の本を大量に読んでいる。読まないと卒業できないからだ。

 でも、あかねにそんなことを言って何になるだろう。





 さあみんな!

 私にアマゾンのギフトカードを貢ぎなさい!


 夕食の席で、なぜかティアラをつけたあかねが叫んだ。佐加と奈良崎と勇気と杉浦も来ていた。ヨギナミがいないので平岸ママに聞いたら


 バイト帰りにそのままカフェに行くって。


 それを聞いた修平が『俺もそっち行っていい?』と言い出して、私と佐加に両腕を拘束された。奈良崎が『諦めろ』と言った。

 平岸ママは娘のために、アニメキャラの顔がプリントされたケーキと、あかねが描いたっぽい絵のカードを用意していた。ケーキ切るとき佐加が、


 顔切るのかわいそ〜!


 と言いながらも遠慮なくザックリと切っていた。私はごちそうを食べながらも、やっぱり、ヨギナミの不在と、あかねがそれを全く気にしていないことが気になった。この2人は仲良くできないんだろうか?学校では普通にしゃべっているのに、家に帰るとどうしてこうなるんだろう?

 すごく嫌だったのが、杉浦があかねのBL話に触発されて、『日本文学における性的表現について』とか題して演説を始めてしまったことだ。人間失格の話とか、古典に出てくるレイプみたいな話のことを語り出した。聞きなくないので私は平岸家を出てアパートに戻った。

 みんなどうしてああいう話を平気でできるんだろう?

 たぶん、自分が襲われたことがないからだ。自分が同じ目にあうなんて(特に男は)夢にも思っていないからだ。

 平岸ママが心配してチョコタルトを部屋に持ってきてくれた。そして、


 あんな娘で申し訳ない。


 と真面目に頭を下げられたので慌てた。


 描くんならせめて普通の少女マンガにしてちょうだいって私は何度も言ってるのよ。それがあの子ったら、男の子のいやらしいマンガしか描かないんだから。


 オタクだから仕方ないですよと言ってあげた。そのうち佐加がやってきて、


 今日はあかねが主役の日だから勘弁してあげなよ。

 もう性的な話しないって、

 ホソマユにも約束させたからさ〜。


 と言ったので、平岸家に戻った。それからは普通にごちそうを食べる普通のパーティーになった。



 夜、ヨギナミが鍵を回収しに来たので、どこに行ってたのか聞いてみたら、


 カフェでおっさんと話してた。


 と。何か聞いた?と尋ねたら、


 所長さんがまた森に行ってるって。

 サキ、会いに行ってあげなよ。


 と言われたので『週末には行くから』と言っといた。

 所長、大丈夫かな?

 でも、むやみに心配するとまた誤解されそうだし。

 私、今まで所長に同情しすぎていたのかも。かわいそうな人だと思って。自分も辛い思いをしてきたから、不幸同士で共鳴してしまった。でも、そんな傷をなめあうような関係じゃ、ほんとはダメだったんた。

 私には私の人生があって、所長には所長の人生がある。

 混同しちゃいけなかったんだ。近づきすぎたんだ。





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