表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年6月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

859/1131

2017.6.26 月曜日 サキの日記


 あと3日よ。3日で18禁が解禁されるのよ。

 ウフフフフフフフフ……


 朝食は、あかねの不気味な笑いで台無しになった。29日まで毎日これを聞かされるのかと、みんなゲッソリ。

 あかねには、『18歳になったら描くと決めていた』ヤバいBLネタがたくさんあるらしい。今まで描いてたマンガだって、さわのんが爆笑するくらいヤバかったのに、これ以上ヒドいものを描く気なのだろうか。そう考えると恐ろしい。きっと全人類をショック死させたいに違いない。

 平岸家組がゲッソリしながら学校に向かったのとは違い、佐加やホンナラ組は学校祭の準備で盛り上がっていた。第2グループはたこ焼きの他に、スマコンが占いブースも出すらしい。第1グループは杉浦が学校の歴史を展示して、佐加は休憩兼カフェスペースをデコってる。

 第3は今年も第1と共同でカフェなので、教室の飾りつけくらいしか今はやることがない。勇気と一緒なの、やっぱ気まずい。向こうは普通に接してくれるというか、いつもどおりみんなを動画撮影してたけど。

 私は、結城さんが来てくれるかどうかを考えていた。

 あと、所長を呼ぶべきかどうか。

 佐加に相談したら、


 じゃ〜、うちが招待状送っとく!


 と言われた。佐加を嫌がって所長は来ないのでは、と思ったが、


 所長が嫌ならおっさんに来てもらえばいいじゃん。


 と佐加が言った。いや、それも困る。


 でもサキさ〜、なんで所長が来るの嫌なの?


 佐加はいつもストレートに質問してくる。私は『別に嫌じゃないけど』と言ってその場を離れ、玄関の飾りつけをしているホンナラ組の所へ行ったら、発泡スチロールで大きな飛行機みたいなの(2人は『宇宙船』と言い張っている)を作ろうとしていた。それより玄関の飾りつけ考えろよと言ったら、『だからこれを入り口に置いて乗ってもらうんだって!』『子供が喜ぶべや』と。

 自分が遊んでるだけじゃんと思いながら教室に戻ったら、今度は佐加が大きなロールケーキを作っていた。いつのまに用意したのか布製のもので、中に大きなクッションを詰めて。ソファーとして使うと言っていたけど、座ってみたらバランスが悪くて思いっきり後ろに倒れた。まだまだ重さの調整が必要だったので、中に詰められる適度に重いものを探していたら今日は時間切れになった。

 今年は最後の学校祭なので、卒業生もたくさん来るだろうと河合先生が言っていた。町の人にとってもお祭りなので、なくなってしまうのは町民にとっても痛いらしい。花火も今年が最後かなぁとみんな言ってる。

 帰り、うっかり林の道に入った所で『しばらく行かないんだった』と思い出した。

 研究所に行きたい。でも行きづらい。

 なんで恋心なんてものがあるんだろう?邪魔なだけなのに。恋とか性欲は、ない方がいい。その方がみんな友達でいられる。余計な、怖い事件も起きない。

 そういえば、前に何かで読んだことがある。

 人間は、13歳が完璧なのだと。

 だけどそこを過ぎると『性欲』が出てきて、完璧ではいられなくなる。あれは何だったかな、確か仏教の──


『明恵 夢を生きる』じゃない?


 奈々子が思考に割り込んできた。


 そういえば昔、12歳くらいで死んだ子の詩集を古本屋で見たことがある。

 12〜14歳って、何かの変わり目なんじゃない?

 そのへんで自殺する子が多いイメージがある。


 笑いながら怖いこと言ってきた。でも、池田晶子も14歳のための哲学の本を書いてる。13じゃわからない。14歳でわかるようになるとも言っていた。

 私は自分が13歳の時何をしていたか思い出そうとしたけど、友達と街歩きするか、本屋にいた記憶しかない。その時の『友達』も、卒業と共に音信不通だ。

 佐加やヨギナミとも、卒業したら会わなくなるのかな。そんなこと今は想像もつかないけど。佐加はうるさいけど、いなくなるときっと寂しいと思う。


 恋って怖いものよね。完璧じゃいられなくなるから。


 奈々子が言った。


 あなたは男の子の性欲が怖いんでしょ?畠山みたいにまた襲ってくると思っているから。

 でもあんなケダモノめったにいないって。

 運悪く最悪に当たったからって、残りのいい人まで拒絶しないで。


 別に拒絶なんかしてない。

 ただ、そういう気になれないだけ。


 それはどうかな。


 奈々子はニヤけながら消えた。何なの。イラっとした。

 それから私は『13歳完璧説』を考えた。性欲がなくて、知識とか頭脳だけで完結できる最後の年齢。私はそれをとっくに過ぎている。13歳で死を選んだ子達は、人を好きになることを知らなかった。それはいいことではないと思う。人間は関係性の生き物だから。


 結城さんに会いたい。

 これも性欲かもしれないけど、それだけじゃない。


 所長をどうしたらいいんだろう?私のことが好きなら、私に会いたいに決まってる。だからいつ行っても歓迎してくれたのかな。それも性欲のせい──とは思いたくない。所長自身のよい気質のせいであってほしい。

 私、都合のいい夢を見てるのかな?

 性欲抜きで、単に親切で優しい人の幻想。

 そんな男いないのかな、日本には。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ