2017.6.25 日曜日 伊藤百合
教会からの帰り道。伊藤百合は、6月らしい青々とした山の景色を眺めながら、家に向かって歩いていた。
教会に通うようになって、心は神で満たされる──はずだった。しかし、今気になるのは、高谷修平のことだった。
修平は伊藤のことを『百合』と呼ぶようになった。図書室の中でだけ。彼に名前で呼ばれるたびに、伊藤の心はうずく。嬉しいような、迷惑なような、何とも言えない感覚に襲われる。
これで、いいのだろうか。
伊藤は悩んでいた。
男の子のことばかり考えていたら、
神から遠ざかってしまうのでは?
そう考えていた。元々修道女になろうと思っていたこともあり、男性と付き合うことは生涯ないだろうと思っていた。スマコンや奈良崎の気持ちにはとっくの昔に気づいていたが、それに応える気はなかった。自分はそういったことには無縁だと思っていた。
しかし、高谷修平が現れた。
家に近づくと、また弟と母の怒鳴り声が聞こえた。伊藤は向きを変え、『村内散歩コース』に向かった。人が少ない村で、歩いている人もあまりいない。日曜にはみな、別な町のショッピングモールや観光地に出かけてしまう。村内には大きな店どころか、小さな店すらほとんどない。
とにかく、ここを出なくては。
家を出なくては。
伊藤はそう考えながら村内を歩き回った。スマホが鳴り、スマコンからの占いの結果が勝手に送られてきていた。
『『カップの2』の逆位置よ。誰を疑っているの?』
誰も疑ってなんかいない。
あえて言うなら、自分の心が疑わしい。
神を求めているはずなのに。
伊藤は考えた。高谷修平とこれ以上仲良くなるのはよくない、と。しばらく図書室は閉めよう。『受験勉強の方が大事だから』と言えば、みんな納得してくれるだろう。受験生なのだから。
でも高谷は、何か言ってくるだろうか?
伊藤はそれを心配した。『何かがおかしい』と気づかれるのは嫌だった。できれば静かに、気づかれることなく、彼から離れていきたかった。




