表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年6月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

858/1131

2017.6.25 日曜日 伊藤百合

 教会からの帰り道。伊藤百合は、6月らしい青々とした山の景色を眺めながら、家に向かって歩いていた。

 教会に通うようになって、心は神で満たされる──はずだった。しかし、今気になるのは、高谷修平のことだった。

 修平は伊藤のことを『百合』と呼ぶようになった。図書室の中でだけ。彼に名前で呼ばれるたびに、伊藤の心はうずく。嬉しいような、迷惑なような、何とも言えない感覚に襲われる。

 これで、いいのだろうか。

 伊藤は悩んでいた。


 男の子のことばかり考えていたら、

 神から遠ざかってしまうのでは?


 そう考えていた。元々修道女になろうと思っていたこともあり、男性と付き合うことは生涯ないだろうと思っていた。スマコンや奈良崎の気持ちにはとっくの昔に気づいていたが、それに応える気はなかった。自分はそういったことには無縁だと思っていた。

 しかし、高谷修平が現れた。

 

 家に近づくと、また弟と母の怒鳴り声が聞こえた。伊藤は向きを変え、『村内散歩コース』に向かった。人が少ない村で、歩いている人もあまりいない。日曜にはみな、別な町のショッピングモールや観光地に出かけてしまう。村内には大きな店どころか、小さな店すらほとんどない。

 とにかく、ここを出なくては。

 家を出なくては。

 伊藤はそう考えながら村内を歩き回った。スマホが鳴り、スマコンからの占いの結果が勝手に送られてきていた。

『『カップの2』の逆位置よ。誰を疑っているの?』

 

 誰も疑ってなんかいない。

 あえて言うなら、自分の心が疑わしい。

 神を求めているはずなのに。


 伊藤は考えた。高谷修平とこれ以上仲良くなるのはよくない、と。しばらく図書室は閉めよう。『受験勉強の方が大事だから』と言えば、みんな納得してくれるだろう。受験生なのだから。

 でも高谷は、何か言ってくるだろうか?

 伊藤はそれを心配した。『何かがおかしい』と気づかれるのは嫌だった。できれば静かに、気づかれることなく、彼から離れていきたかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ