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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年6月

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2017.6.21 水曜日 サキの日記

 数学が終わった開放感!もすぐ別な問題を思い出して消えていく。

 試験が終わってごはん食べてから研究所に行った。歌の練習のためだった。なのに結城さんは出かけていていなかった。所長によると『友達に会いに札幌へ行った』と。友達って誰って聞いても『知らない』と。

 私は今日、所長に、


 ずっと友達でいましょうね。


 と言った。そしたら所長は『うん、いいよ』と笑って答えた。すごく無邪気な様子で。あれ?って思った。所長は、私と一緒にいる時は、あの時みたいな『人を想って思いつめたような顔』は見せない。いや、もしかして私が勘違いしてるのかな、と思ってたら、所長はこう言った。


 サキ君、そろそろ、

 僕に敬語を使うのやめてくれないかな。


 と言った。友達なんだからタメでいいじゃないか、と。でも、歳が10歳くらい離れてる大人だし。そもそも私、所長に敬語なんか使ってましたかって聞いたら『うん、今も使ってる』と言われてしまった。あんまり自覚してなかった。いきなり変えるのは難しいですよと言っておいた。

 佐加がこないだのチョコイベントの時、所長とまりえさんが2人で話してる所を写真に撮ってて、『めっちゃカップルに見える』と言っていたのでどうなのか聞いてみたら、


 芸術家として尊敬しているけど、そんな仲じゃない。


 と。2人とも見た目も雰囲気も似てるから付き合えばいいのにって言ってみたら、


 僕は本当に好きな人としか付き合えない。


 と言われた。なんか、自分のことを遠回しに非難されたような気がした。私は好きでもない勇気と付き合って、キスまでして別れた。なんでそうなったのか未だにわからない。いや、私が悪いのはわかってるんだけど。

 所長が本当に好きなのは誰なのか。

 私は聞けなかった。聞くのが怖かったので、話を数学の試験にそらした。

 所長には友達でいてほしい。

 研究所は安全な場所であってほしい。

 私が好きなのは結城さんだ。



 帰ってから、奈々子が出てきて、


 ちょっと!ひどくない!?

 今までさんざん思わせぶりなことしておいて、

『友達でいましょう』って何!?

 創くんがかわいそう!


 と怒り出した。


 思わせぶりって何?ていうかあんた所長の何?

 ママか何か?


 という感じで言い合いに発展した。奈々子は、私と所長は真剣に付き合うべきだし、今までの行動も付き合っているようにしか見えなかったと言う。


 でも私はそんなつもりない。なぜ普通の友達ではいけないんだろう?性別は関係なく、安心して付き合える仲があってもいいはずではないか。研究所は私にとって、安全に逃げ込める場所だった。そこに私を好きな人がいたら──私は安全じゃなくなる。


 なんで人に好かれると安全じゃなくなるの?


 奈々子には理解できないようだった。


 あなたは結局、男の子と付き合うのが怖いだけなのよ。

 畠山でしょ?またあんなことが起きるんじゃないかと思ってるんでしょ?

 でもよく考えて。

 創くんがそういうことしそうに見える?

 絶対しないから。


 奈々子はさらにこう言った。


 わからない。ナギには自分からすりよっていくくせに。

 創くんからは逃げようとするの?


 だって私が好きなのは結城さんだもん!


 あっそ。勝手にすれば?


 奈々子は意地悪な口調で言って、姿を消した。

 何なんだ。腹立つ。

 しばらく研究所行かない方がいいかなと思った。でも奈々子に歌のレッスンをさせないといけない。どうしようか考えているうちに、自分が受験生だということを思い出した。ほんとはそれ、一番大事なことのはずなのによく忘れる。


 受験が近いので勉強に専念したいと思います。


 私はそう書いた。


 歌のレッスンは土日だけにして、

 平日は杉浦塾に行こうと思います。


 所長にそう送ったら、『わかった。がんばってね』と返事が来た。

 なんかそっけない。もうちょっと文句言うとか、『うちで勉強したら?』とか言ってくれるとか何かあればいいのに。やっぱり私の勘違いなのかな。

 土曜まで結城さんに会えない。結城さんにもスケジュール送ったけど今の所見られてすらいない。

 どこで誰と会ってるの?

 友達って男?女?


 佐加が学校祭のデコ案を送りつけてきた。ケーキ柄のソファーやクッキー柄のテーブルを置いて、休憩カフェスペースにしようと思っているらしい。

 学校祭、忘れてた。

 所長も呼ばないとダメかな。去年呼んで今年呼ばなかったら変だと思われる。

 でも気まずい。

 こういうの、嫌だな。

 所長は何でも話せる友達だと思ってたのに。

 なんだか付き合いにくくなってしまった。


 恋なんて全然いいものじゃない。

 少なくとも友情にとっては。




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