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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年6月

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2017.6.9 金曜日 河合先生への日誌 保坂秀人

 信じてもらえるかわかりませんが、今日見たとおりのことを説明します。

 まず、スマコンが朝のタロットで『塔』を引きました。これは何か衝撃的なことが起こるカードなのだそうです。保ん家では金魚が一匹死んで浮いてました。うちでは親父がヨギナミを引き取りたいと言って母とケンカし、僕は朝食を買いにセコマに行ってパンを買いました。

 今日は選択授業の日で、僕は書道だったので何の問題もなかったのですが、佐加によると、美術で『幽霊が出た』そうです。新橋に取りついている幽霊が出てきて代わりに水彩で風景画を描いた。でも、大ざっぱに緑と空色を塗りたくったような下手な絵だったそうです。佐加は『サキの美術の成績が悪くなる』のを心配していました。

 今日は音楽室で歌の練習をする予定だったので、早めに出てきてしまったのかもしれません。歌はわりとうまいんです。音はきちんと取れています。ただ、声量があまりない。発声練習を、新橋がやっていないからです。幽霊は『やってほしいけど嫌がるのを強制はできない』と言いました。

 それから、みんなに相談したいことがあるから聞いてほしいと言いました。それが、

「私は結城のことが好きなんだけど、どうしたらいいか」

 でした。ヤバいと思いました。新橋が結城さんのことを好きなのはみんな知ってます。勇気と別れたのもそれが原因です。それはヤバいですよとみんなが口々に言う中、スマコンは、

「その思いが成就しないと、あなたは成仏できそうにないわね」

 と言ったのでさらにみんな困ってしまいました。いや、それはダメでしょう保が言い、伊藤ちゃんと高谷も

「サキのことを考えるとそれはちょっと……」

 と言っていました。僕は、歌に関してはいくらでも協力するから、それは諦めた方がいいと言いました。すると、

「あああ!奈々子ムカつく!」

 と、突然戻ってきたらしい新橋が叫び、廊下に飛び出していきました。佐加が追いかけて連れ戻してきましたが、かなり怒っていて、

「もう歌の練習もさせない!」

 と言っていて、こんどはみんなで新橋をなだめなければいけませんでした。学校祭までもう2ヶ月ないし、結城さんのことはともかく歌はやらせてあげた方がいいよと。でも、新橋は自分の人生と好きな人の両方が幽霊に取られてしまうことを、ひどく恐れているようです。

 みんなが帰ってからスマコンと自分らの曲を練習しました。スマコンは新橋について、

「悪いけど、覚悟を決めて奈々子さんのために行動しないと、彼女を救うことはできないし、新橋さんも開放されないわね。これは宿命よ。わたくしの力ではどうにもできないわ」

 と言っていました。それから、アメリカの選挙を皮肉った歌詞をいくつも出してきたのでボツにしました。女性大統領が誕生しなかったのが不満のようです。トランプも大嫌いらしいです。生理的に。占いは当てるくせにそれは予想できていなかったらしいです。

 でも、僕はこうなるんじゃないかと思っていました。マイケル・ムーアのドキュメンタリーを見ていたら、テレビニュースとは映っている人が違うので。テレビや映画にはセレブばかり映っていますが、マイケルのドキュメンタリーに出てくるのは普通の会社とか工場とか、地方の町の普通の人です。あれが本当のアメリカだった。セレブやハリウッドは、アメリカの現実を現していなかった。

 スマコンには言わないでください。トランプをマジで嫌っているので。自分がレズビアンだから、あの存在に攻撃されているように感じているらしいです。僕もそういう差別はよくないと思っています。

 学祭ではまた去年と同じ選挙の歌になると思います。秋倉の町議会ではあいかわらず居眠りをする議員がいて、スマコンは、

「せっかくわたくしが歌を作ってあげたのに」

 と怒り心頭です。でも、本人は政治家を目指す気はなくて、あくまで目指しているのは占い師です。サイキック町長とかやってみればと言ったら「ふざけるのはやめてちょうだい」と怒られましたが、僕はそういう人が日本に一人くらいいてもいいと思うし、スマコンは占い師より政治家に向いていると思います。問題発言しまくると思いますが。

 父のことはヨギナミに知らせておきました。「全力で逃げる」と言っていました。僕はこの家から早く出たいです。自衛隊の試験に受からなくても、卒業したら家を出ます。金を出してもらえなかったらバイト探します。何年か働いて金を貯めたら結婚したいです。子供もほしい。普通の幸せな家庭を築きたい。

 夕食は保の家で食べました。奈良のとっつぁんが昔のロマンポルノの話をしてました。保も「早く家を出たい」と言っていました。





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