2015.11.9 研究所
ヨギナミは、難しい顔をしながら、研究所に続く林の道を歩いていた。昨日『誰だかわかんない人』が置いていった帽子を持って。
ヨギナミが勉強に使っているキッチンの机と椅子の間に、それは挟まっていた。電話番号が書かれたメモと一緒に。
忘れたんじゃない、
わざと隠したんだ。
誰だかわからない方が。
でも、何で?
ヨギナミは不安を感じながら玄関に近づいた。
ああ、ごめんごめん。
あいつドジくさいよね。
出てきたのは、助手だった。ニコニコしていて妙に馴れ馴れしい。
久方さんは?と聞くと、
見当たらないから散歩にでも行ったんじゃない?
との答え。
ヨギナミが昨日のことを話そうかどうか迷っているうちに、助手は素早く中に戻ってしまった。
二階の部屋で、久方創はまだ寝ていた。正確に言うと、もう2時間近く寝たふりをしていた。どうしてもヨギナミに会いたくなかったから。
そのうち助手がやってきてドアを乱暴に叩いた。久方がドアを開けた瞬間、帽子を頭にきつく押しつけられた。
覚えてなくてもいいからあいさつくらいしろよ!
助手はそれだけ吐き捨てて自分の部屋に戻ると、またピアノを弾きはじめた。
久方もいつも通り慌てて着替え、音を避けるために一階へ逃げ出した。




