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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年5月

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2017.5.24 水曜日 サキの日記


 修平が入院した。まさか風邪がそこまで悪化するとは思わなかった。私はもう熱は下がったけど、喉が痛いので大事を取って学校を休んだ。今日はヨギナミも風邪で休み。平岸ママが看病で忙しそう。そのせいか、あかねの機嫌が悪い。学校から帰ってきてすぐ私の部屋にグチグチ言いに来た。佐加はヨギナミを見舞ってから私の部屋に来て、3人でおしゃべりしてたら夕方になった。

 男子の何人かが『高谷にLINEしても既読にならないけど大丈夫か』となぜか私に聞いてきた。なんで私が知ってると思われてるんだ?勇気から久しぶりにLINE来た。お見舞いに行きたいから病院の名前教えろと言われた。まさか病院で動画撮る気じゃないだろうなと言ったら『高谷が起きてたら撮ろうと思ってる』と当然のように返された。やめろ、やめてくれ。

 修平に風邪うつしちゃったのは悪かったと思ってる。もっと気をつけるべきだった。

 所長はもう治ったらしい。


 森であの子に会ったよ。でも僕を見て逃げていった。

 追いかけてる最中に結城のピアノで起こされた。


 結城さんはピアノを再開したらしい。所長が熱出してる間はやめてたのに。

 佐加が帰って、あかねが出ていった後、枕元に奈々子が現れた。


 このままあなたが死んじゃったら、

 どうしようかと思った。


 だって。大げさな。


 修平くんと先生、大丈夫かな?


 それは私も心配だ。

 奈々子は私の横に立て膝したまま、ずっと私をじーっと見ていた。


 何?


 気まずくなって尋ねた。すると、


 もう気づいてると思うけど、


 奈々子が言った。


 私、ナギのことが好きになっちゃったみたい。


 頭を殴られたようになって何も言えなくなった。私が黙ってる間、奈々子は、今まで私を通して見た結城さんの行動をいろいろと思い返して長々としゃべっていた。そして、私がいつまでも動けないことに気づくと、『ごめん』と言って消えた。

 いや、知ってたけど。

 とっくの昔に気づいてたけど。

 はっきり言われるとは思わなかった。私に気を遣って黙ってるのかと思ってた。とうとう抑えられなくなってしまったんだろうか。

 どうしよう?

 考えてたらあかねが来て『夕飯もう一緒に食べれる?』と聞いてきた。私は部屋で食べたいと言った。平岸ママが食事を運んできた。サバの塩焼きだった。ショックなことがあっても私は食欲が落ちない。一気に食べた。それから部屋の中をうろうろした。落ち着かなくて。

 どうしよう。両思いじゃん。

 このまま奈々子と結城さんがくっついたら私はどうなる?

 体を勝手に使われるのか?

 そんなの嫌すぎる。耐えられない。

 心にどす黒いものが湧き上がってきた。

 絶対に邪魔しないと。

 しばらく研究所に行くのはやめよう。

 結城さんに会っちゃいけない。

 でも、これが未練になって、成仏してくれなかったらどうしよう。

 歌わせるだけで満足してくれないと困る。

 こっちだってわざわざ練習に体貸して犠牲を払ってるんだし。

 食器を取りに来た平岸ママに『まだ顔色が良くない』と言われた。当たり前だ。知りたくないことを知ってしまった。いや、前から薄々気づいてはいたけど。

 所長に一応知らせとこうと思って『奈々子は結城さんのことが好きみたいです。しばらくそちらに行くのはやめます』って送ったら『それはよくないと思うよ』と言ってきた。結城さんを避けても何の解決にもならないって。それはそうかもしれないけど、今は結城さんと奈々子を会わせたくない。

 イライラして部屋を歩き回ってたら、


 余計なこと言ってごめん。


 という声だけが聞こえた。黒猫の杖で殴ろうかと思ったけど姿は見えなかった。

 どうしよう。

 今日眠れそうにないので残ってたコーヒーを飲んだ。もうやめとこうと思ってたのに。

 何か方法はないだろうか。奈々子ではなく、()()結城さんの目を向けさせる方法。でも結城さんは私を相手にしようとしない。なんとなくバカにした態度を取る。

 そういえば畠山にもそんな所があった。ヘラヘラしているというか。

 また余計なことを思い出してしまった。

 奈々子のせいだ。

 いや、わかってる。奈々子は別に悪いことはしてない。ただ、正直に思ってることを言っちゃっただけだ。

 でも腹が立つ。私も結城さんが好きだから。

 どうしたらいいんだ。






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