2015.11.8 ヨギナミの家
ヨギナミは草刈り鎌を持ったまま、うつらうつらして、たまに首をかくっと下げて、慌てて起きて……を繰り返しながら、家のまわりの枝や草を刈り取ったり、たまった落ち葉を掃いたりしていた。
眠。
今日はバイトも学校も休み。珍しい日だ。本当は休みたい。でも、この蔓の固まりは片付けたい。本当は雪が降る前に片づけたかったが、遅れてしまった。母親は具合が悪い。いつも。自分がやるしかない。
でも、なぜうちの近くに限って、こんなものが生えているのだろう。よその家では見たことがない。そもそも、普通はこんな人里離れた小屋には住まない。母が隠れたがるから悪い。自分は噂から逃げているつもりでも、学校に行かなくてはいけないヨギナミには、何もかもがたまったものではない。
でも、文句も言えない。
おい、刃物持ったまま寝るな。
やたらによく通る声がして、ヨギナミは急に目が覚めた。
道の向こうから歩いてくる人影。
それは久方創だ。
ただし、目付きが悪くて声が大きい方の。
ヨギナミは、畑や研究所で会う『所長』と、たまにここに様子見に現れる『目付きの悪い人』を区別していた。
だって、まるで別人だから。
でも、どういうことなんだろう?
さっきから眠くてたまんない。
疑問は置いておき、普通の話題を振った。ヨギナミは本当に疲れていた。
昨日何時まで働いてた?
ヨギナミは正直に10時と答えた。それから徒歩45分を歩いたから、家に着いたのは11時近くだ。
それ貸せ。俺がやる。
久方(らしき人)はヨギナミから草刈り鎌をひったくるように奪い取り、乱暴に草を切り裂き始めた。まるで八つ当たりだ。
お前は中入って寝てろ。
ヨギナミは言うことを聞かなかった。ただ、玄関に座って『誰だかよくわからない人』が雑草を始末するのを見ていた。
寒いだろ、早く中入れって。
お母さんに怪しまれるから、終わるまで見てる。
そう返答すると、久方(らしき人)が嫌そうな顔でこちらを睨んで舌打ちをした。
ほら、それ、所長じゃない。
ヨギナミは思っていた。研究所で食べ物を分けてくれる礼儀正しい人と、この、親切だけど荒っぽい人は、明らかに別人だ。
佐加に相談しようか、研究所の助手に話した方がいいのか(でもあの人、怖い)
ヨギナミは迷っていた。
草刈りがほぼ終わった頃、久方(らしき人)がくしゃみをして震え始めたので、中に入ってお茶飲んでから帰ればと言った。
俺が来ると母親が嫌がるって言ってなかった?
と聞かれたので、ヨギナミは小窓を手で示した。
青白い顔の母親が、久方(らしき人)を見ていた。やつれてはいるが美しい顔に、困惑の混じった作り笑いを浮かべながら、手を動かしている。
入ってきなさい。
その手はそう言っていた。弱々しいが、有無を言わさない態度だった。




