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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年4月

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2017.4.23 日曜日 サキの日記

 勇気が平岸家に来て、第3グループの集まりになった。

 私を研究所に行かせないために見張りに来たんじゃないかと思った。

 今日の勇気はおかしい。ずっと私を見ている。

 そして、動画を撮らない。

 スマホすら、一度も手に取ってなかった。

 なんか怖い。


 あかねが修平に『今日は図書室に行かないの?』と聞いた。修平は『伊藤は教会に行ってる』と言った。ガチの信者なんだって言ったら『そういう言い方するのやめろよ』と怒られた。そこで勇気が、震災の時に、仏教もキリスト教の宗派も関係なく、支援のためにいろんな宗教の指導者が集まっていたという話をした。何か大きな災害が起こると、宗教の力が必要になるんだよと。

 勇気がそんな話するなんて意外だった。そういうの一番信じてなさそうだと思っていた。本人も『特に何かの宗教を信じているわけではない』と言っていた。

 話は幽霊に移った。修平が、


 先生は橋本に恩があるから、橋本をなんとかしないと成仏できないと思うんだよね。あと『自分が何者かわからない』って言ってたな。親がいなくて、17歳より前の記憶がない。

 初島は『自分が作った』って言ってたらしいけど。


 と言った。あかねが、


 作った?産んだの?


 と言った。年齢的にそれはないよと勇気が言った。新道の仲間達が持っていた不思議な力(イタズラ以外に使い道がなかったようだけど)は何なんだろうと、みんなで、超能力とか魔術とかについてググってみたけど、怪しいマジシャンとか占い師が出てくるだけで、『人を創り出す』なんてのはもちろん出てこない。

 それはもう遺伝とか高度な科学の領域ではないのか?

 何もわからないので、奈々子の話に移った。一番やりたいことがわかりやすいから。歌うこと、幻のトッカータを見つけること。

 そしてたぶん、結城さんをなんとかすること。


 あの人って何のためにあそこに住んでんの?


 勇気が言った。ちょっと嫌そうに。


 所長の世話人なんだけど、全然仕事してない。


 私は言った。『私が本当に好きなのはその人です!』と言ってしまおうかと思ったけど、言えるわけがない。


 昔は橋本のせいで二重人格とか精神病だと思われてたらしくて、親が世話人をつけたらしいんだよね。


 私の代わりに修平が説明した。


 でも、今は橋本さんとも和解して落ち着いて生活しているみたいだから、ぶっちゃけ結城は必要ないはずなんだよな。

 やっぱり奈々子さんとトッカータだよ。


 するとあかねがまた妄想を発した。


 本当は久方さんのことが好きなのよ。そのうち『俺のものになれ』と言いながら押し倒す日が来るのよ。

 ウフフフフ。


 やめて!妄想はやめて!


 私は耳をふさぎながら叫んだ。


 あー。


 修平が困って変な声を発した。


 橋本の話していい?


 一番厄介で危ない話になった。

 モノクロの森だ。

 しかも修平は、


 一回あそこで初島に会った方がいいのかもしれない。


 とか言い出した。


 先生は『危ないからダメだ』って言ってるけど、でも、3人の幽霊を呼び出したのは初島だよね。久方さんが探さずにいられないのも、何か本能的に感じるものがあるからじゃないかな。『一度対決しないと、何も解決しない』ってさあ。


 対決って、何すんの?


 勇気が尋ねた。


 何が起きたか、真実を聞くんだよ。


 修平が答えた。そして顔をしかめた。


 また先生が『それは危険すぎる』って言ってる。俺だって危ないとは思うよ。だけど久方さんはたぶん『なぜ自分はあんな目にあったのか』について、納得できる答えを見つけてないんだ。本当は橋本が何か教えてくれればいいんだけど。


 頑なに話そうとしないよね。


 私は言いながらあかねと勇気を見た。あかねはスマホを見ていて、話に興味なくなったのか、ネタのためにメモを取っているのかどちらかだと思った。勇気は私と目が合うとニコッと笑う。かっこいいけどなんか怖い。

 いろいろ話したけど、『奈々子に歌わせる』以外、特に私達にできることはない。修平が『久方さんに会いに行った方がいいよ』と私に言ったのでびっくりした。もちろん勇気は反対した。しかも、


 橋本って人がヨギナミに話してたんだよ。久方さんが『哀れなほど新橋のことが好き』だって。


 またその話か。うんざりした。橋本まで誤解してる。


 あんなオッサンの言うこと信じないでよ。


 私は言った。でもあかねはニヤニヤしてるし、修平も気まずそうに目をそらす。みんな私と所長のことを疑っているのだ。


 本当に何もないんだってば。

 自然とか哲学の話をする友達なだけ。


 と私は何度も言った。



 ランチは平岸ママが勇気の分も用意していた。焼きサバ定食。あかねはまた魚臭いとか文句言ってたけど、勇気は『和食久しぶり』と言ってた。松井マスターはパンと洋食が好きで、和食はあまり食べないらしい。漬物は好きらしいけど。

 私は食事しながら、『勇気はいつまでここにいる気だろう』と心配していた。ずっと私を監視している気なのでは?

 食事の後で『カフェに行こう』と言われた。でも、たどり着くことはなかった。道の途中で結城さんの話をされて私がブチ切れたからだ。


 あの人昔ヤバいことしてたんだって?


 と。確かに『女の人と付き合ってお金もらってた』という若い頃の話は聞いてる。でも、


 そういう人とは関わらない方がいいよ。


 とか言われるとウザすぎる。私は怒ってもと来た道を引き返した。勇気は追いかけてこなかった。しかもLINEも何もなし。

 私達もうダメかも。

 と思った。研究所に行こうか迷ったけど、やめた。すぐ帰ってきてこたつで寝てる私に気づいた平岸ママに『何かあったの?』と聞かれたけど、なんて答えていいかわからなくてスルーしてしまった。

 結城さんに会いたい。

 でも、会ったところで嫌味を言われるだけだ。

 八つ当たりのように所長に『今日は森に行ってませんよね?』と聞いてみた。


 橋本に本当のことを教えろって言ってるのに無視される。

 絶対何かやましいことがあるんだ。だから話せないんだよ。


 やっぱり自殺なのかな。うちの母がショックを受けておかしくなったみたいに、初島もそれで変になったんだろうか。たぶんその線で間違いないような気がする。

 妙子にこの話振ってみようかと思ったけど、また仕事放り出されても困るからやめた。せっかく幽霊達の話をしていたのに、奈々子も出てこない。

 私はもう何日、同じことで悩んでるんだろう。

 時間の無駄だ。

 もう高校生活あと一年もないのに。

 もっとやらなきゃいけない大事なことがあるはずなのに。

 どうでもいいことで、日々が過ぎてしまう。






 

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