2017.4.10 月曜日 サキの日記 始業式
とうとう3年になってしまった。
所長に『自分が3年生になる日が来るとは思ってなかった』と言ったらめっちゃ笑われた。
若い時は時間が遅く感じるだろうけど、どんどん速くなってくよ。僕くらいの歳になったら一年も三年もあっという間だよ。
と。でも全然実感わかない。
とにかく今日始業式で、私達はとうとう3年生になった。秋倉高校最後の生徒だ。先輩も後輩もいない。私達だけ。
席替えがあって、私は窓際の前から2列目。4人ずつ3列あって、私の前はスマコン。『伊藤と離れてしまったわ』とか言いながら、廊下側2列目の伊藤ちゃんに手を振っていて、伊藤ちゃんもふり返していた。それを見た佐加が『怪し〜』と言っていた。その佐加は、保坂とともに先生のど真ん前。
一番嫌なのは私の隣が杉浦だということだ!!くそっ!絶対教科書忘れられないじゃん!ていうか、後ろに奈良崎がいるからそっちに借りてもいいか(どうせ授業中寝てるし)。しかしウザい。
修平が伊藤ちゃんの隣で、見るからに落ち着かない様子なのを、廊下側後ろの勇気がニヤニヤしながら見ていた。時々私に向かって意味ありげな目配せをしてきた。佐加の隣にヨギナミがいるので、2人はずっと何かやりとりをしていた。先生の目の前にいても佐加は態度もやることも変えない。全く意識していないかのごとく。ある意味すごい。
あ〜でも隣杉浦でこれから何ヶ月も過ごすのめっちゃウザい!
とはいえ、12人しか生徒がいない始業式は、けっこう寂しい。ほとんど話さなかったけど、前の3年がいなくなってできたスペース、後から新入生も入ってこない体育館。この学校が終わりに近づいていることをひしひしと感じさせる。
切ない。
そして私にはもう一つの心配があった。
前の学校の人達にここのことを知られたんじゃないかと。
みんなが帰ろうとしていた時、私は窓から外をじっくり観察した。どこかに前の学校の人が──畠山とかノノバンが──いたらどうしようかと思って。でも窓から見えるのはフェンスと、草原、そして山。秋倉の普通の風景。人は誰もいなかった。
何見てんの?
勇気と佐加が近づいてきた。
誰もいないなあと思って。
私はつぶやいた。
先輩いなくなって寂しくなったよね〜。うちらだけなんだよ?今この学校にいんの。信じらんないよね〜。
佐加はうまいこと別な意味にとってくれた。勇気がカフェに行こうと言い、佐加もおもしろがってついてきた。お昼を平岸家で食べてからカフェに行く約束をした。
勇気にはまだ本当のことが言えない。
カフェでも『3年だぜ〜』みたいな話と、あと、札幌で会った岩保さんが今週末に遊びに来るとか言ってた。日光に当たれない病気なのでいろいろ準備がいるとか。私も会うことになった。確か岩保さんって、ポット君を作った人だ。てことは所長にも会いに来るのかな。
私は3時頃カフェを出て、研究所に向かった。勇気には内緒で。本当は『もう行くな』と言われてるんだけど。
所長も『岩保は土曜日に来る』と言っていた。でも、外を歩いているのを見たことがないので、少し心配らしい。ポット君に『岩保さん知ってる?』と聞いたら、ほっぺたに赤い丸を表示して嬉しそうな顔になった。こういうのどうやってプログラムしてるんだろう?
結城さんは今日、出かけていていなかった。昼頃車でどっか行ったらしい。私を避けているのかもしれない。学校今日始まるのも知ってただろうし。
そうだ、奈々子のことも、今年こそ解決しないと。
帰ってから、作戦を立てようと思って奈々子を呼んだ。なのに出てきやがらない。むきになって叫んでたら修平に『うるせー』と叫ばれた。今日もギターを弾いていた。フェザーザップの曲をいくつか。けっこううまいけど、うるさいことに変わりはない。
私は平岸家に移動した。平岸パパがテレビの間でニュースを見ていた。平岸ママとあかねが言い争っているのが聞こえた。ヨギナミの母親のことでもめているようだった。平岸ママはヨギナミのお母さんの親友だから、しょっちゅう見舞いや付き添いに出ている。あかねはそれが気に入らないようで、ものすごく辛辣な悪口を言いまくっていた。あんな女早く死ねばいい、とか。ヨギナミがここにいなくて本当によかった。
仕方ないので部屋に戻ろうとしたらヨギナミが帰ってきてしまった。客が少ないから早くなったと。私はヨギナミが平岸家に行かないように自分の部屋に引き込んで、『前の学校の子達に居場所バレたかもしれなくて怖い』という話をした。
こんな田舎までわざわざ来ないよ、大丈夫。
とヨギナミは言った。
よっぽど怖い目にあったんだね。だから最近ずっと落ち着かない感じでキョロキョロしてたんだ。
やっとわかった。
と言われた。私、そんなにあからさまに態度に出してたんだ。めっちゃ恥ずかしい。3年になったばっかだし、もう少し落ち着かないと。




