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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年4月

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2017.4.7 金曜日 高谷修平

 修平は部屋で聖書を眺めていた。読もうとしているのだが内容が頭に入ってこない。『主を愛さないものは呪われよ』など、同じ信仰でない者に対して辛辣な所も怖い。キリストが死から復活したことが重要であることはなんとなくわかった。しかし、

『修平君、今の君は体調がよくない』

 新道先生の言うとおりだった。今日は朝から体に力が入らず、ふらふらしていた。

『無理をしてはいけませんよ』

「本くらい読めるよ」

 修平は強がって言ったが、文字を目で追うのもつらくなってきていた。

「今日もあの森に行こうとした?」

『ええ、でも入れません』

「久方さんが拒否したから?」

『おそらく』

「そんな力持ってるとは思わなかったね」

『やはり初島の力を受け継いでいますね。本人も自覚しているようです。問題は、その力を悪い方に使う傾向があるということです』

「初島に会ってどうするつもりなんだろう?前一度会ってるよね?」

『逆らうことができないようでした。会うのは危険ですよ』

「でも、結局あのモノクロの森って何なの?」 

 修平はそこが不思議でたまらなかった。

「先生は死者の世界って言ってたよね?でも久方さんは『自分で作った』とか言い出して先生を追い出した。でも、久方が作った世界なら、俺が行けるのはおかしくない?」

『君はあそこに行ってはいけませんよ。生きている者が──』

「わかってるって。でも、久方さんが勘違いしてる可能性ない?」

『とにかく母親に会いたいんでしょうね』

「それもわかんない。神戸にまともな親がいるのにね〜」

 修平は再び聖書を読もうとしたが、だめだった。文字がブレて見えたので、本を閉じ、横になって目を閉じた。

「先生」

『何でしょう』

「伊藤って、人を好きになることあるのかな」

『どういう意味ですか?』

「神様のことしか考えてないんじゃないかと思うことがある。一見図書委員でさ、本に詳しくて、人ともうまくやっているように見えるけど、本当の伊藤の中身は、長崎で見たあれなんじゃないかって」

『あの時の姿が忘れられないんですね』

「うん」

 それから修平はスマホを見たりしていたが、

「高校、あと一年だよね」

 おもむろにつぶやいた。

『とうとう3年生ですね』

「一年、もつかな、俺」

『大丈夫ですよ。無理せずゆっくりやればね』

「でもさ、あの元気な奴らに『ゆっくり』が通用すんのかな。最近ずっと調子悪いし、大学とかさぁ、受かったとしても、通えるのかな」

『それはその時考えればいいんですよ』

 新道先生が微笑んだ。

『今は、今のことを考えましょう。君は、せっかく人が差し出したものを拒否して苦しんでいる』

「どういう意味?」

『他人の心配とか、()()()とか』

 修平は少し黙ってから、

「自分の力で生きてみたいんだよ」

 と言った。

「自分の力だけで生きられるか、試してみたい」

『わかりました。でも、まわりの人の好意まではねつけてはいけませんよ』

「わかってるよ」

 新道先生は、

『久方さんが心配なのでもう一度試してみます』

 と言って消えた。修平は体がベッドに重く沈んでいくのを感じた。今日はこれで限界なのか。

 スマホが振動した。見ると、保坂から、一緒にギターを弾かないかと誘いがあった。『今日は無理』と返事をした所で、修平の意識は途絶えた。







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