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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年3月

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2017.3.15 水曜日 サキの日記

 まだ言い出せない。『好きな人別にいるから』『実ははじめから好きじゃなかった』『あのときはびっくりして『うん、いいよ』って言っちゃっただけ』とか、どう伝えようか一日中考えてる。ていうかそれしか考えられない。なのに、勇気本人といるとどの言葉も出てこない。

 ので、今日も一緒にカフェに行って、コーヒー豆をローストする機械みたいなのの説明をずっと聞いていた。松井マスターが時々こっちを見てる。『孫と一緒に後を継いでくれないかしら』とか思われてないか怖い。

 コーヒーごちそうになったけど、苦味以外何も感じなかった。これは勇気が苦いコーヒーを好んでるから、それだけかもしれない。でも、私が、コーヒーの味がわからなくなるなんて、明らかに非常事態だ。


 結城さんに会いたい。


 でもカフェで夕方になってしまって、平岸パパが迎えに来てしまった。車内で『最近コーヒーの味がよくわかんないんですよ』と言ったら、


 あそこのコーヒー、最近うまくなったって俺は思ってたんだけど。前のマスターが死んでから味一回変わったんだけど、戻ってきてるなあ。


 と。それは、勇気が亡きおじいさんに憧れて味を真似ようとしているからだ。味だけじゃない。自由奔放だった性格も真似ようとしている。でも私から見た勇気は、もっと真面目で、暗めで、内向的な性格だ。

 以前生きていて、今はいない人達が、今生きてる私達に影響を与える。時に強く操りさえする。そんなことを思った。私だって(まだ死んでないけど)両親の影響は強く受けている。


「『妙子の夜』全国ロードショー」


 なんて話を聞かされちゃあ、なおさら私の心は落ち着かない。最近妙子の新作話多すぎない?しかも公開予定は来年。1年もかけて妙子スプラッタに磨きをかける気だ。怖すぎる。


 その間に新春特番と夏のホラーもあるわよ。

 今年も忙しいわあ。


 40代の娘はのんきにこう書いてくる。バカからはあいかわらずバカピョンなメッセージが来て、全てスルーしてる。

 こんな親に『好きでもない人と付き合ってしまったんですけど、どうやって別れたらいいですか?』なんて相談できない。そして私の頭の中では、妙子が哀れな(もはや何のために存在してるかわからない)主人公を追いかけ回すホラー映像が駆け巡っている。クローゼットの中から飛び出してくる妙子、温泉の中から現れて主人公を水中に引きずり込む妙子、やっと逃げた山の中に、怪しい手下を連れて颯爽と現れる妙子──

 あんな狂ったストーカー活動を見て面白がる視聴者って何?日本は平和すぎるのか。いや、そんなことより私はどうしたらいいんだ。

 奈々子を呼んでも出てきてくれないので、聞こえるように勝手に部屋で叫んでたら隣の修平に『うるせー!』と怒鳴られた。

 私はどうしたらいいんだ!?






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