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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年3月

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2017.3.10 金曜日 高谷修平 3年生の卒業式

 修平が花をつけてあげようとすると、男子の先輩達は揃って逃げ出した。女子達はおとなしく伊藤に従って、胸に卒業生用の花をつけられ、はにかんだような顔をしていた。

 しかし男子どもときたら、走って逃げる、用具入れに閉じこもって出てこない。カウンターやテーブルの下を這い回って、修平が持っている花から逃げようとする。

 やっと全員を捕まえたときには、修平の体力は限界に近づいていて、式までの間、図書室の椅子でぐったりと休むハメになった。

「ほんとあの人達、最後の最後まで全力でふざけてるよね」

 修平は浅い声で言った。先輩達の行動には心の底から呆れていた。

「でも、あのクラスらしいしょや。ふざけるの好きだし3年」

 伊藤がカウンターから言ってきた。

「担任があの怖い西田なのに、よくあんなふざけられるよね」

「反抗して余計にふざけたくなるんじゃない?特に原田先輩」

「特に原田先輩ね」

 修平は笑った。

「あの人に卒業式のあいさつ読ませるの危なくない?絶対何か余計なこと言うって」

「それは先生方も予想してると思う」



 修平の心配をよそに、式は滞りなく平和に終了した。

 原田先輩が壇上で、

「昨今の教育の質の悪さは──」

 と発言し始めた時には一部の人々の間に緊張が走ったが、予想されていたほど過激な内容ではなかった。『原田でも一応気を遣うんだね』と誰かがつぶやいていた。今までどんな言動をしてきたのかをうかがわせる発言だ。

 式には2年生も来ていたので、佐加や平岸あかね達は仲のよい先輩と一緒に大声をあげたり泣いたり笑ったりで忙しそうだ。保坂と奈良崎も音楽が好きな先輩と話していて、高条はそれらをひたすら動画に撮っていた。その隣には早紀がいて、つまらなさそうに全体を見て、スマホを見る、をずっと繰り返していた。知っている先輩がいないからつまらないのだろう。

「先生」

 修平はみんなから少し離れた所で、新道先生に話しかけた。

「自分の卒業式のこと思い出してただろ?」

『はい』

 新道先生が、少し落ち込んだ表情で現れた。

『毎年、この時期になると、必ず思い出します』

「橋本と初島のことも?」

『ええ、必ず』

 スマコンがタロット占いで『悪魔』を出し、先輩が悲鳴をあげた。

『あの時、止めるべきだったのかもしれない』

 新道先生がひとり言のようにつぶやいた。

「『必ずよみがえらせてみせる、どんな手を使ってでも』」

 修平が初島の言葉を繰り返した。

「もう決めてたんだな。橋本の魂を呼び戻すって」

『しかし自分の子供を犠牲にしてまで──』

「おい!高谷!」

 原田先輩がニヤニヤしながら声をかけてきた。

「お前に一万かけてんだからがんばれよオ!!」

 こう言いながら、修平の肩を2回強く叩いた。後ろで他の先輩達がクスクス笑っていた。

「あ〜、まあ、がんばります」

 修平は戸惑いながら答え、伊藤の方を見た。どうもこちらを見ていたようだが、目が合う前に視線をそらされてしまった。

「進捗は俺に逐一報告しろ」

「何の進捗ですか?」

「そしたら俺がいいアドバイスをくれてやろう」

「うわ〜マジいらないっす」

 卒業後もこの人と付き合うことになるのかと思うと、修平は喜んでいいのか悲しんでいいのか、自分でもよくわからなかった。

「私もう帰る」

 早紀が言い出したので近づいてみると、

「奈々子は卒業式の次の日に死んだから、なんか私も不安になってきた」

 と修平に向かって言った。早紀は高条と一緒に帰っていった。他の2年は、3年と一緒に記念撮影したり、卒業アルバムに書き込みをしたりと忙しい。

『いい式でしたね』

 新道先生が言った。

『みんな元気そうで、安心して送り出せます』

「先生ってほんといっつも先生だよね」

『どういう意味ですか?』

「どこまでも先生ってこと。あ!ちょっと!原田先輩!俺が作った雪像破壊しないでくださいよ!」

「そうです!それは僕らがみなさんの卒業を祝ってですね──」

 杉浦が叫び出した。それを合図に、3年全員と、なぜか佐加とホンナラ組までもが雪像に襲いかかり、あっという間にただの雪山にしてしまった。ショックでくずおれた杉浦をみんなでからかい、卒業式は終わった。









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