2017.2.27 月曜日 高谷修平
「相談したいことがあるから、帰り一緒に平岸家に来てくれない?」
早紀に頼まれた。
「話だったら図書室に──」
「ダメ!他の人に聞かれたくないから!伊藤ちゃんにはもう言ってあるから!」
そう言われて、帰り道をしぶしぶ2人で歩いた。早紀は平岸家に着くまで一言も発さなかった。
平岸家のテレビの間に入った時、
「このままじゃいけないと思うんだよね」
と早紀が言い出した。
「昨日も夜奈々子が出てきて、私の人生についていろいろ言ってきてさ。私もムカつくし、離れられない奈々子も辛そうなんだよね」
「そういや昨日の夜騒いでんの聞こえた。何か、俺の話してなかった?」
「アパートの壁薄すぎ!」
早紀が跳ねながら叫んだので、修平ら驚いて少し後ろに引いた。
「何の話してたの?」
「うちらの幽霊をなんとかしなきゃって話してたの!」
早紀がやたらに大声で叫んだ。
「なんとかするって言われてもなあ〜」
修平はどうしたらいいかよくわからなかった。ただ、このままではいけないとは自分でも感じていた。ただ、
「どうしていいかは俺もよくわかんないんだけどさ」
正直に答えた。
「たぶん橋本は久方さんを心配してる。ヨギナミの母親も」
「新道は」
「たぶん俺だと思う」
「俺?」
「体が弱いから。一人でやっていけるのか心配してる」
「じゃああんたが丈夫になればいいってこと?」
「無理言わないでくんない?」
「そもそもあんたの病気って何?今も悪化してんの?」
なんてストレートな質問だ。修平は答えに詰まった。
「具合悪いなら無理しない方がいいよ。最近なんとなく調子悪そうだなってみんな思ってるから」
「みんな?なんで?」
「ノリが悪いから」
「ノリ」
「だからって無理に元気なフリされても痛々しいからやめてね?」
「サキ、いっつも俺に対して辛辣だよね」
「だってカッパだし」
「前に奈々子さんが、俺がいじめっ子に似てるとか言ってたけど、俺に似た奴がそんなに恨まれるようなことしたの?」
早紀はショックを受けたような目で修平を数秒見てから、
「カッパめ」
と言って、外に出ていってしまった。
「えっ?あのさ、幽霊の話は──」
「続きは明日!」
廊下から叫び声が聞こえた。
「明日もこの話すんの?」
言ってみたが返事はなかった。
取り残された修平は仕方なくテレビをつけて、昼間のニュース番組を見ながらぼんやりし始めた。本当なら、今頃図書室で伊藤と一緒にいたはずだったのだが。
伊藤、最近よそよそしいな。
修平は思った。最近、出会った頃と同じくらい敬語率が上がり、声も冷たい。どうしたのだろう?家で何かあったのか、それとも単に自分が嫌われるようなことをしただろうか。バレンタインのチョコレートももらえなかったし──。
考え事が悪い方向に向かったので、修平はテレビを消し、アパートの自分の部屋に戻った。
勉強しよう。最近あまりできていなかったし。
もうすぐ3年生になる。受験生なのだ、自分は。
先生の気配も今日はない。また別世界を見張りに行ってしまったのか、単に出てきたくないだけなのか。
幽霊を成仏させるには、自分がしっかりするしかない。
修平はそう思っていた。しかし、体調はよくない。少し教科書を読んだだけで疲れてしまい、眠りかけた所を、平岸あかねの怒鳴り声で起こされた。夕食の席では、アニメの話を延々とするあかね以外、みな黙りがちだった。




