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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年2月

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2017.2.20 月曜日 サキの日記

 今日は目が合う時間も長かったし、なんだか『つながってる』感じがした。私と勇気、いけるかも。今日は手をつないでも緊張したり硬直したりしなかった。『私には彼氏がいる!』って感じ。少し舞い上がっていたので、リオにLINEしてどうでもいいことで盛り上がったりした。


 手をつなぐだけで楽しい時期ってあるよね。

 私、しばらくそういうの忘れてたなあ。


 リオは高校をやめて、高卒の資格を取るための勉強をしながら、美容の専門学校に行く準備をすると言ってる。ちゃんと将来のビジョンがあるんだ。リオは美人でしかも努力家だから、何やっても成功すると思う。

 カフェで勇気に、夢で見た奈々子の話をした。奈々子は所長の境遇に自分の寂しさを重ねていた。それで、『余計なことをしてしまった』と言う。でも勇気は、


 人のやることって、だいたいはそんなもんじゃない?

 自分に響かないことはやる気しないし、逆に関係あると思えばほっとけない。

 別におかしなことじゃない。


 と言った。それから『苦さ限界ブレンド』とかいう名称のコーヒーを私に勧め、『苦すぎる!』って文句言ってる私を動画に撮って喜んでいた。その動画外に出したら殺すって言っといた。コーヒーは本当にめっちゃ苦くて、今でも口に残ってる感じがする。

 奈々子がもし生きていて、次の日、音楽教室に行ってたら、何が起きてたんだろう?結城さんは何をする気だったんだろう?聞いてみようと思って何度もLINEしかけたけど、今の所聞く勇気出ない。

 もしかして、告白するつもりだったとか?

 押し倒すつもりだったとか?

 それともただ『歌をやめるな』って説得したかったとか?

 ぼーっと考え事をしてたらカッパにエビフライを一本取られた。今度何かで奪い返さないと。からあげの日とか来ないかな。

 所長に今日の出来事を送って、最近昔の夢を見たりしないか聞いてみたら、ないと言っていた。ただ、橋本がヨギナミのお母さんに話しかけるとき、昔の話をすることがあって『まわりの人ともっと話せばよかった』とか『昔は人を信用できなかった』とよく言ってるらしい。

 やっぱり自殺なんだろうか。

 学校ではみんな気力なくなってきてる。試験が終わって、あとは3年になるのを待つだけだからだ。伊藤ちゃんは何人かの先輩の話をして『いなくなると寂しい』と言っていた。


 もうすぐうちらだけになるんだよこの学校。


 佐加が言った。


 うちら入学した時の3年は、

 まだ30人くらいいたんだよね。

 それが今12人だよ?

 ほんとにこの学校なくなるんだよね。


 そう考えたら、急に校舎とか教室とか図書室が惜しくなってきた。ここで過ごせるのもあと一年。その後、ここは、なくなってしまうのだ。私はむやみに建物内を見回した。佐加と一緒に使われていない教室や、忘れられている食堂(昔はここに人が溢れていたらしい)を見て回った。学校はまだあるのに、長年使われていないというだけで、そこはもう過去の遺跡みたいになっていた。私が絵が描ける人だったら、そこにある悲しみみたいなものを作品にできたかもしれない。テーブルに乗せられたままほこりをかぶっている椅子の列。かつてにぎやかだった場所。今は誰も来ない場所。



 寝ようと思ったら奈々子が出てきて、またアヴリルの曲が聴きたいと言ったので、『Everybody hurts』をかけてあげた。奈々子はスマホの前に立ってずっーとそれを聴いて、無言だった。


 中学の時好きだった人に会いたい?


 私は聞いてみた。奈々子は首を横に振った。


 最後の日に、結城さんは何をする気だったと思う?


 答えはなかった。


 今でも誰かに愛されたいとか思う?


 そう思わない人はいないと思う。

 

 奈々子はそう言った後、消えてしまった。

 幽霊なのに誰かに愛されたいらしい。困った。

 そのうちまた私の体使って結城さんの所に行ってしまうんじゃないだろうか──と思ってたら、ヨギナミが来て、研究所の鍵を持っていった。いつまでこれが続くんだろう?そういえば新道が前に言ってたな。


 もう少し、彼女を理解してください。


 と。

 自分に取りついて乗っ取ろうとする幽霊を理解する。

 犯罪の被害者が加害者を理解するくらい、それは難しい。





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