2017.2.3 金曜日 サキの日記
佐加に言われて初めて思い出した。もうすぐバレンタインじゃん!しかも彼氏がいる初の!今日私達はその話題でずっと盛り上がっていて、なぜか男子の目が冷たかった。佐加は毎年全員に義理チョコを配っているらしい。
他の男子が発言を控えているのに(勇気でさえ何も言ってこなかった)カッパが『俺の分は?俺の分もあるんだよね、手作りとか?』などとはしゃいでいたため、奴には絶対何も渡さないことに決めた。
明日駅前に、
チョコレートの店がオープンするの知ってる?
とあかねが言い出したので、みんなで行くことになった。たぶん初日だけ混んで、そのうち潰れるだろうとあかねは予想していた。
だってこんな田舎にそんなオシャレな店出してどうすんの?駅前の店はほとんど潰れてシャッター下りてるし、カフェとスーパー以外何もないのに。
たぶん車で来る観光客を狙ってるんじゃない?北海道ってさ、草原の真ん中にポツンとアイスクリームの店があって、そこに行列ができてたりするじゃん。
と私が言ったら、あかねはなぜか嫌がっていた。佐加は、外国人観光客が来たら、ファッションのために学んでいるフランス語を試したいと言っていた。でも、英語やった方がいいと思う。フランス人がこの町に来る可能性ってそんなに高くないと思うし、英語なら中国人とかにも通じるし。
英語やった方がいいのはわかってんだよ?
うちニューヨークにも行ってみたいしさ〜。
でもなんかやる気しなくね?
西田が怖いせいかな。
帰りに勇気が『ちょっといい?』って近づいてきたので、チョコをねだられるのかと思ったら、
幽霊の話なんだけどさ、新橋が嫌じゃなかったら、
一度大勢の人の前で歌わせてあげたらどうかな。
とか言い出した。嫌ですと言って置いて帰ろうとしたら、勇気は後ろからついてきた。
嫌なのはわかる。でもさ、未練があって成仏できないんだとしたら、話を聞いた限りでは、やっぱり歌手になりたかったんだと思う。それなら、一度そういう体験をさせてあげれば──
私は走って逃げた。後でスマホ見たら、『さっきはごめん』と言ってきていた。2人でいるときは幽霊の話やめよう、と私は言った。
部屋に戻ったら奈々子が出てきた。でも、立ってじっとこっちを見ているだけで何も言わない。不気味なので、私は何か聴きたいのかと尋ねた。
あなた、本当に、高条くんのこと好きなの?
と聞かれた。黒猫の杖でぶん殴ろうと思ったら、察したのかすぐ消えた。
気分が悪くなったので、リオにバレンタインのことを聞いてみた。去年は生チョコの話聞いたり、ポット君の形したチョコ作ってもらったりしたっけ。そうだ、所長にもあげないと。あと、結城さんにも。
今年はなんにも予定がないから、自分のためにチョコレートケーキ作ろうと思って。サキが東京にいたら一緒に食べられるのにね。
私の心に悪しき考えが浮かんだ。今週末、飛行機に乗って東京に帰り、学校のバレンタインは無視してリオとケーキを食べて過ごす──ああ、そうできたらどんなにいいか。でもダメだ。なぜだ、なぜバレンタインと後期末試験の時期が重なるんだ!?バレンタインはサボれても試験はムリだ。
試験は受けなきゃだよね。
私もそろそろ学校に戻んなきゃなあ。
あ、やっぱり学校行ってなかったんだ、リオ。
簡単なチョコのレシピ送ってあげるから、
気になるピアノ狂いさんに作ってあげたら?
と言われたので、彼氏できたことを伝えるの忘れてたことに気づいた。
え〜!ちょっと!まずそれを先に言ってよ!
と怒られ、どんな彼氏かしつこく聞かれた。そして、『やっぱ彼氏には手作り!』と念を押されてやりとりは終わった。
明日チョコレートの店に行くんだけどな。
どうしようかな。
私は送られてきたレシピを見ながら考えた。なんかこれお酒入ってるんだけど、未成年が食べてもいいものなんだろうか?そもそも料理苦手な私にリオと同じクオリティのチョコなんか作れるわけないし。
まあいいや、明日お店の方を見てから考えよう。
バレンタイン。ああ!聖バレンタインよ!
めんどくさいです!
せっかく彼氏がいてバレンタインなのに『彼のためにチョコ作らなきゃ!』みたいな気分にどうしてもなれない。なぜだ、なぜなんだ私!?
気がついたらまたBBCのニュース画像見てた。バレンタインより英語の勉強の方が大切だと思う。だけど、彼氏にはとてもそんなこと言えない。
寝ようと思ったら、なぜか親子テレパシーが通じてしまったのか、うちのバカから、
もうすぐバレンタインピョ〜ン!
というLINEが来ていたので、スルーした。
忘れてた!毎年ねだってくるバカの存在を!それに劇団の人にもなんか面白いもの贈りたいな。明日お店で見てこよう。
彼氏よりも劇団のおじさん達に何あげるか考える方が楽しい。
やっぱり私、どっかおかしいんだろうか。




