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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年11月

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2015.11.2 サキの日記


 英語の学習ソフトを久しぶりに開いたら、

『ひさしぶりだね。英語の勉強嫌になっちゃった?』

 と表示されたのでNOを選択。ちょっとだけディクテーションやって、世界史の音声読み上げ機能に移った。


 全然耳に入ってこない。


 結局出かけてしまって、雑貨屋のアクセサリーを眺めて過ごしてた。キラキラしたものを見たり、手に取ったりするのが好きだ。でも買わない。私が身につけてもなんか、合わない。店の人にとっては嫌な客。

 今私に必要なのは、キラキラしたアクセサリーじゃない(欲しいかと言われれば、欲しいけど)


 パン屋の店員が、常連らしい客と世間話している。道を渡ろうとしたら車が来たから立ち止まったら、車の方も気を使って止まった。ベビーカーを押してる母親が、私の持ってる本屋の袋を睨んだ。なんだか悲しくなった。



 母からメールが来た。共演者の誕生パーティらしい。謎めいた色のケーキの画像がついている。



 うちの母は、娘の誕生日を忘れる。


 夏休み中だから……ではないと思う。普通、自分が痛い思いをして子供を産んだ日は忘れないと思う。忘れるというより、意図的に避けてるような感じ。二三日あとになって、ごめん忘れてたというメールが来たり、一週間くらいあとになって小さなプレゼントが届いたり(中身は十八金のリングで、サイズもデザインも私に合わず、ムカついて売り払って本代にしてしまった)

 全く関心がない訳じゃない。

 でも、なぜかいつも当日を避けられる。小学生の時バカに理由を聞いたが、それは本人にしかわからんよ、大人になればわかると言われた。バカにはむしろ忘れてほしいが、奴は絶対に騒ぐ機会を逃さない。だから私の誕生日は、いつも劇団のおっさん達か、札幌のじいちゃんばあちゃんプラスうるさいバカと過ごすことになった。

 私のまわりは、私の誕生日を祝いたい、家族でもない人ですら祝福したくてたまらない愛情あふれる大人が常に取り囲んでいた。

 でも、母はいつも、そこにはいなかった。


 未だに、理由がわからない。



 母はメールやLINEが好きらしい。今もバカほどじゃないけど、『この店でこんなの食べた』みたいなメールはけっこう来る。ブログの記事を娘だけに送ってるみたいだ。私もコメントを軽く返す。


 でも、何考えてんのか、さっぱりわからない。



 所長にこういう話をしたら、


 世の中には、子供の存在自体を無視する親もいるから。サキ君は幸せじゃないか。


 と、珍しく冷たい声で言われた。所長の親のことも聞いてみたかったけど、『聞かないほうがいい!』と直感が叫ぶのを感じたので、行くことに決まった塾の話をした。

 所長は塾には行ったことがない、というか、行かなきゃ勉強できない人達の気持ちがわからないという。

……秀才め!!



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