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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年8月
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2015.8.21 サキの日記

 平岸ママが言うには、昔自分の祖母が言っていたことが、今になって身に染みるようにわかるというのだ。


『人生は、誰かに食べさせてもらってるうちが花。

誰かに食べさせなきゃいけなくなったら大変』



 昔は秋倉高にも生徒がたくさんいたから、




 まるで遠い昔のことのように、平岸ママは言う。




 お米だけでもう、一升炊きでも足りない。育ち盛りの男の子が多い年なんてそれこそ……。



 今、食卓には平岸一家3人と、私しかいない。

 あかねは母親の話は聞き飽きてるのか無視。平岸パパは聞いてるのか聞いてないのか、半笑いで曖昧に頷くのみ。

 だけど、ママの後ろの食器棚には、一クラス30人以上の食事は賄えそうな量のお皿が重なり、壁のコルクボードには、かつてここで食事していたであろうたくさんの生徒の写真がピンやセロテープでびっしりと貼ってある。古びたものから新しいものまで。生徒の見た目が今風に新しくなるほど、夫婦は年をとり、小さかったあかねと兄(神奈川の大学にいるらしい)はまわりの生徒の年齢に近づいていく。


 アパートにもキッチンがあるのに、生徒の健康に責任を感じている平岸ママは、アパートの住人の食事をすべてここ、平岸家で提供してきた。



 数年前から、よその町からの下宿者がいなくなり、

 少子化により生徒が減った秋倉高校は、

 ちょうどあかねが卒業する年で、廃校が決まっている。



 私は『斜陽』を思い出していた。



 アパートに戻る途中、塀に落書きがあることや、使われていない郵便受けに昔の住民の名前が残っているのを見つけた。

 今まで全く気付かなかったのに。


 かつてここにいて、今はもういない生徒達。


 私も、そんな人たちの一人だろうか。



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