表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年2月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

698/1131

2017.2.1 水曜日 サキの日記

 2月になっちゃった!2年生もあと1ヶ月ちょっと。もうすぐ3年になる。なのに全然実感わかない。後期末試験まであと2週間くらいなので、奈良崎以外の全員が勉強ゾーンに入ってる。私も学校に残って第3の4人で勉強した──いや、正確に言うと、あかねが突然、数学教師と生徒のBL妄想を叫び始めて、修平と勇気が写真室に逃げていったので、一人で勉強したようなものだった。そして、あかねは夕食に出てこなかった。原稿を書くのに忙しいらしい。何を描いているかは知りたくないけどもうわかっちゃった。

 鍵は取り返したけど、今日は研究所には行かなかった。夜は決められたとおりにヨギナミが(カッパから変更された。より良識のある人に)鍵を没収しに来る。

 勇気の彼女になって一週間と3日。やることは前とあまり変わってない。ただ、お互いに目が合うと笑っちゃうだけだ。

 そんな自分が不思議で考え込んでいたら、いつのまにか奈々子がベッドの隅に座っていて、こちらをじっと見ていた。なんか用?って聞いてみたら、


『Hello Again』が聴きたい。

 My little loverのやつ。


 と言ったので聴かせてあげた。なんだか悲しい歌だった。今の私達には合わない。


 この曲のCD,北24条の中古屋で買ったの。

 なつかしいな。

 でも、あの店ももうなくなってるだろうなあ。


 奈々子はそう言ってしばらく曲に聴き入っていた。何度かリピートした後で私は聞いた。始めに所長と会った時、幽霊の話をどう聞かされたのかと。


 最初に会った時には橋本だったよ。


 奈々子は画面を見ながら言った。


 創成川のあたりを歩いてたら、子供が走ってきて私にぶつかったの。そのまましがみつかれたからえ?何!?ってびっくりした。そしたら、その子がものすごい早口で今の状況を説明しだした。母親が暴力を振るっていて、それは幽霊を呼び出して子供にとりつかせたからで、その幽霊が自分で、こいつはこのままだと消されるから助けてくれとかなんとか。

 最初は意味がわからなかったし、夕方で遅かったから、ごっこ遊びはやめて家に帰ったらって言っちゃった。そしたら『帰れないって言ってるだろ!』って叫びながら逃げてっちゃった。今思うと悪いことしちゃったな。


 いや、普通いきなりそんな話されても信じないでしょ。


 そうだよね。

 でも気になって、次の日も同じ場所に行ったんだ。


 来たの?


 来たけど、一言もしゃべらないし、すごく怯えてるの。昨日会ったよくしゃべる子とは別人みたいで。


 それ、橋本じゃなくて所長だったんじゃない?


 そう。『家に帰らないの?』って聞いたらビクッと震えて、首を振って、泣き出しちゃったの。私子供苦手だからどうしたらいいかわからなくて、とりあえずマックに引っ張っていった。子供の時よく父に連れてもらってたから。

 そしたら、店内に入ったとたん、

『お前こんなとこ一人で来てんの?女子なのに危ねえな』

 って。


 奈々子が笑った。


 橋本に切り替わったんだ。


 それから、たまに見かけるようになったし、修二のことも教えてあげた。


 奈々子はそう言ってから私の目を見て、


 ねえ、本当にいいの?


 と尋ねた。


 何が?


 高条くんと付き合ってて、結城と創くんはどうしたの?


 結城さん。

 まずいことを指摘されたような気がした。

 私はまだ、結城さんのことが好きだから。

 奈々子はそれを察知したに違いない。


 あんたに関係ないでしょ。

 私が誰と付き合おうと。


 そう言ったら、奈々子は『そうだね』と言って消えた。

 いろいろ心配になったので、私は勇気に『今、幽霊と話した』と、昔の話の部分だけ送った。


 そんな話聞かされても子供の作り話だと思うよね。

 保と秀人もサバイバルゲームしてるけど、あれも壮大なごっこ遊びみたいなものだよね。今度俺達も混ぜてもらう?冬が終わったら。


 それ、面白いかもしれない。銃は本物じゃないよね?


 秀人が改造してなければただのオモチャ。


 保坂、銃の改造なんかしてるのか。危ないな。研究所で何か起こさないといいけど。

 それで思い出したので、所長にも昔話を送った。


 全然覚えてない。でも、橋本は後悔してるらしいよ。あの日に出会わなければ巻き込まずに済んだのにって。

 今更何言ったって変わらないのにね。


 出会ってしまったという事実は動かず、奈々子は死んで、今私に取り付いている。そして、人の彼氏にダメ出しをする。いや、私の選択にダメ出しをしているのか。

 私、何か間違ったことをしているだろうか?

 いいよね。勇気のことはわりと好きだし、結城さんは私にかまってくれないし、所長は友達だし。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ