2017.2.1 水曜日 サキの日記
2月になっちゃった!2年生もあと1ヶ月ちょっと。もうすぐ3年になる。なのに全然実感わかない。後期末試験まであと2週間くらいなので、奈良崎以外の全員が勉強ゾーンに入ってる。私も学校に残って第3の4人で勉強した──いや、正確に言うと、あかねが突然、数学教師と生徒のBL妄想を叫び始めて、修平と勇気が写真室に逃げていったので、一人で勉強したようなものだった。そして、あかねは夕食に出てこなかった。原稿を書くのに忙しいらしい。何を描いているかは知りたくないけどもうわかっちゃった。
鍵は取り返したけど、今日は研究所には行かなかった。夜は決められたとおりにヨギナミが(カッパから変更された。より良識のある人に)鍵を没収しに来る。
勇気の彼女になって一週間と3日。やることは前とあまり変わってない。ただ、お互いに目が合うと笑っちゃうだけだ。
そんな自分が不思議で考え込んでいたら、いつのまにか奈々子がベッドの隅に座っていて、こちらをじっと見ていた。なんか用?って聞いてみたら、
『Hello Again』が聴きたい。
My little loverのやつ。
と言ったので聴かせてあげた。なんだか悲しい歌だった。今の私達には合わない。
この曲のCD,北24条の中古屋で買ったの。
なつかしいな。
でも、あの店ももうなくなってるだろうなあ。
奈々子はそう言ってしばらく曲に聴き入っていた。何度かリピートした後で私は聞いた。始めに所長と会った時、幽霊の話をどう聞かされたのかと。
最初に会った時には橋本だったよ。
奈々子は画面を見ながら言った。
創成川のあたりを歩いてたら、子供が走ってきて私にぶつかったの。そのまましがみつかれたからえ?何!?ってびっくりした。そしたら、その子がものすごい早口で今の状況を説明しだした。母親が暴力を振るっていて、それは幽霊を呼び出して子供にとりつかせたからで、その幽霊が自分で、こいつはこのままだと消されるから助けてくれとかなんとか。
最初は意味がわからなかったし、夕方で遅かったから、ごっこ遊びはやめて家に帰ったらって言っちゃった。そしたら『帰れないって言ってるだろ!』って叫びながら逃げてっちゃった。今思うと悪いことしちゃったな。
いや、普通いきなりそんな話されても信じないでしょ。
そうだよね。
でも気になって、次の日も同じ場所に行ったんだ。
来たの?
来たけど、一言もしゃべらないし、すごく怯えてるの。昨日会ったよくしゃべる子とは別人みたいで。
それ、橋本じゃなくて所長だったんじゃない?
そう。『家に帰らないの?』って聞いたらビクッと震えて、首を振って、泣き出しちゃったの。私子供苦手だからどうしたらいいかわからなくて、とりあえずマックに引っ張っていった。子供の時よく父に連れてもらってたから。
そしたら、店内に入ったとたん、
『お前こんなとこ一人で来てんの?女子なのに危ねえな』
って。
奈々子が笑った。
橋本に切り替わったんだ。
それから、たまに見かけるようになったし、修二のことも教えてあげた。
奈々子はそう言ってから私の目を見て、
ねえ、本当にいいの?
と尋ねた。
何が?
高条くんと付き合ってて、結城と創くんはどうしたの?
結城さん。
まずいことを指摘されたような気がした。
私はまだ、結城さんのことが好きだから。
奈々子はそれを察知したに違いない。
あんたに関係ないでしょ。
私が誰と付き合おうと。
そう言ったら、奈々子は『そうだね』と言って消えた。
いろいろ心配になったので、私は勇気に『今、幽霊と話した』と、昔の話の部分だけ送った。
そんな話聞かされても子供の作り話だと思うよね。
保と秀人もサバイバルゲームしてるけど、あれも壮大なごっこ遊びみたいなものだよね。今度俺達も混ぜてもらう?冬が終わったら。
それ、面白いかもしれない。銃は本物じゃないよね?
秀人が改造してなければただのオモチャ。
保坂、銃の改造なんかしてるのか。危ないな。研究所で何か起こさないといいけど。
それで思い出したので、所長にも昔話を送った。
全然覚えてない。でも、橋本は後悔してるらしいよ。あの日に出会わなければ巻き込まずに済んだのにって。
今更何言ったって変わらないのにね。
出会ってしまったという事実は動かず、奈々子は死んで、今私に取り付いている。そして、人の彼氏にダメ出しをする。いや、私の選択にダメ出しをしているのか。
私、何か間違ったことをしているだろうか?
いいよね。勇気のことはわりと好きだし、結城さんは私にかまってくれないし、所長は友達だし。




