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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年11月

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2015.11.1 東京都内 高谷修平


「じゃあさー、久方じゃなくて、中の奴と話せばいい?」


 高谷修平は、自室の机に秋倉高校のガイドを広げながら、後ろにいる『先生』に尋ねた。部屋の中にはゆるい風が常に循環している。空調は入っていない。修平の希望で『先生』が風を流している。特殊な能力らしいが、本人もその仕組みはわからない。

『中の人だって何も知りませんよ』

「でも先生は話したいんじゃないの?」

『先生』は返答していいものか迷った。正直に話したいと答えたら、またこの子は変に無理をするのではないだろうか。今日だって、具合が悪いからと家から出ていないのに。

「どっちでもいいけど、母親がどこにいるか聞かないとさあ」

『創くんは何も知りませんよ』

「そうかな」

 修平はそうは思っていない。自分の身にこれだけの異変が起きて『何も知らない』で済むものだろうか?普通調べようとするんじゃないか?自分が『先生』の生前勤めていた学校や、関係者の名前を見つけ出したみたいに。

「見てこれ、手書き」

 秋倉高校の紹介を空中にかざす。風になびいて裏向きに曲がる。先生は風を弱めた。

 他人が今の修平を見ていたら、なにを一人でぶつぶつパントマイムをしているのかと不審がられるだろう。今は部屋に一人だからいいが。

『何かおかしいかな』

「いくら田舎の学校でもパソコンとプリンターくらいあるよね今時」

 修平が持っている紙には、鉛筆で書いたような地図が印刷されている。

 別なページには生徒が書いた紹介文があるが、これもボールペンで書いたものをそのままコピーしたようだ。


『うちのクラスは9人しかいません。

 廃校が決まったので、私たちが最後の生徒になります。

 一緒に秋倉高校最後の卒業式を迎えましょう


                    伊藤百合』





 卒業式。


「生徒の名前まで昭和っぽいね。百合だよ百合。怪しいよこの名前」

 修平はおもしろそうに笑った。実際は『卒業式』という単語に引っかかっていた。

 出られるだろうか?

『僕に言うのはいいけどね』

『先生』は心配なようだ。

『向こうの学校でそういう田舎をバカにしたような態度は……』

「しないって」

 修平は紙をライトに透かすようにかざした。

「でもさあ、こういうマジメーな文章書く奴って絶対なんか裏あると思わない?」

 話を聞いているのかいないのか……修平はその後もずっと、田舎の学校に突っ込みを入れ続け、『先生』は心配になるのだった。親も説得できていないし、行くことになったとしても先の話だが、こんな調子で、向こうの生徒たちと仲良くできるものだろうかと。

 一番心配なのはもちろん、体調だが……。



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