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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年1月

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2017.1.24 火曜日 サキの日記

 思ったより嫌ではない。高条の彼女。こっちを見てるのを感じたり目があって微笑まれたりすると、相手は一応イケメンなのでドキドキする。うん、悪くはない。

 今日体育の授業があって、お互い動いてる所を見ていたというか、いつもにはない不思議な感じがした。見学していたカッパにカップルがどうとかからかわれた。南先生にもキャーキャーされた。うらやましいわあ〜とちょっと怖い目で言われて、佐加が『南先生独身だからね』と言った。佐加は憧れのダブルデートがしたいと言った。すると高条は『まず2人でいろんなとこ行ってから』と言った。いいじゃん、ダブルデートが最初でも。話題なくなっても気まずくならないし、と私は言った。藤木は何も言わない。岩のように黙っている。何を考えてるんだろう?佐加はノリがよいので、次の土日に4人で浜歩こうとか、ショッピングモールはどうだろうとか、頭の中は既にダブルデート計画でいっぱいのようだった。


 ここまで書いてて、他人事のようだと思った。

 なぜか、自分に起きていることだと思えない。


 高条は今日もカフェに来ないかと言ったけど、昨日行ったし、もうさんざんみんなに質問攻めにされて疲れていたので、今日は帰ると言ってしまった。少し冷たかったかな。高条は特に嫌な顔もせず、わかったと言った。私がその後何をしたかというと、研究所へ行って、合鍵を使って中に入った。

 所長は古いモノクロの映画を見ていた。私が来たことに気づくと、『見る?』と言って、初めまで戻してくれた。『街角 桃色の店』という映画で、なんと1940年のもの。めっちゃ古い。そして、舞台はハンガリーなのにみんなが話してるのは英語。

 主人公の男は、バッグなどを売ってる店の店員で、文通相手の女性に夢中。そこに、『どうしても仕事がほしい』という女が来る。もちろんその女が文通相手だけど、主人公は気づかない。2人は気が合わず、店ではケンカばかりしている。

 ある日、とうとう会うことになって待ち合わせの店に行ったら、その女が約束の本を持って待っていた。主人公は動揺する。相手は気づかないので、主人公を見て嫌な顔をする。別な人を待っているからそこに座るなと言う。でも主人公はそこに居座って軽いやり取りをする。男は気づいていて、女は気づいていないという形で話は進む。

 途中でこの店の店長の自殺騒ぎがあったりして、『この場面本当に必要か?』と思ったりしたけど、全体的にテンポが速くて面白い。でもこれ、女の立場から言ったら『もっと早く言えよ!』と言いたくなるような。

 所長はこの映画で女の人が手紙に『あなたの見た目については言わないで。心が通じ合っていれば関係ないわ』と書いているのが好きらしい。やっぱり自分の見た目を気にしているのかな。一緒に服を買いに行くの嫌がるし。

 主人公が品質にこだわって揉めてるところを見てたら、『これは合皮だからすぐはがれる』とか言ってた。この時代にも合皮あったんだな。

 この作品、原題は『The shop around the corner』だ。なのに日本語の題名にはなぜ『桃色』が入っちゃったんだろう?当時の日本人のラブストーリーのイメージが桃色だったとか?伊藤ちゃんに見せたら文句言いそうだ。『原題と違う!』と。

 この映画は『ユー・ガット・メール』のもとになった話、とDVDのケースに書いてあったけど、私はそれ見たことないと所長に言ったら、


 じゃあ、明日はそれを見ようか。


 と言われ、自動的に明日も来ることになってしまった。私はここで高条のことを思い出した。普通彼氏って、彼女が別な男(所長だって男だ、と結城さんがよく言っているではないか)と映画を見てたら嫌がるよなと思って、おそるおそる聞いてみた。『もう研究所には行くな』とか言われたらどうしようかと思いながら。


 俺もその映画見たいんだけど、一緒に行っていい?


 と。所長に聞いたら、


 いいよ別に。

 いっそ佐加とか他の子も呼んじゃえばいいよ。


 と。おかしい。所長が自分から佐加を呼ぶなんて!気に障っちゃったんだろうか。

 そのあたりであかねが来て、『夕飯!』と叫んだ。

 帰り道で、


 あんた、高条と付き合ってるくせに、

 久方さんと仲良くしていていいわけ?


 と言われた。いや、高条と付き合ったからって、別に他の人と縁を切らなきゃいけないわけじゃないし。

 今日、結城さんはいなかったな。どこ行ったんだろう。

 私はおかしいのだろうか。高条と付き合っているのに、所長と映画見て、今は結城さんのことばかり考えてる。


 サキちゃん、それは性欲ヨ!


 カントクが前に言ってたっけ。そうだ、自分の方を向いてくれない人のことを気にしても仕方がない。少なくとも高条は、私のことは好きでいてくれる。結城さんみたいに、嫌味を言って私を避けたりしない。


 いいの?本当に。


 後ろに奈々子がいた。


 うるさい。


 私は言った。


 人の幸せの邪魔すんじゃねーよ。


 奈々子はあっさり消えた。すっかり忘れてた。この幽霊を成仏させるにはどうしたらいいんだろう?みんなが言うとおり『歌わせてあげる』しかないのかな。

 明日高条に相談してみようかな。

 あいつは幽霊ではなく、私の味方でいてくれそうだし。





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