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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年1月

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682/1131

2017.1.19 1980年

「じゃあ、やっぱり何も起きてないんだな?」

 橋本古書店。新道が橋本と話していた。

「当たり前だろ」

 橋本は本をめくりながら言った。

「前から言ってるだろ、あいつは嘘つきだって」

「じゃあどうしてみんなにそう言わない?」

「言ったよ俺は。でもあいつら信じてなかったろ?」

 新道はクラスのみんなの様子を思い出して口ごもった。

「だろ?」

 橋本は本を閉じて新道を見上げた。

「みんな本当に何が起きてるかなんて気にしてねえよ。とにかく俺の悪口を言いたいだけだ。勝手にでっちあげられた話の方が面白ければ、そっちを信じるんだよ」

 橋本の目つきには諦めが満ちていた。

「だけど、だけど」

 新道は言葉に困りながらも強く言った。

「なんでそんな嘘つくんだ?初島は」

「あいつは昔からそうなんだ」

 橋本は新道から目をそらし、本を棚に戻し、別なものを探し始めた。

「昔から?」

「小学生の頃から嘘ばっかりだ。あいつはな、他人にかまってほしいだけなんだよ。それで人の気を引くために作り話をするんだよ。『私、本当はお父さんの子供じゃないの』みたいな話を」

 新道はしばらく考えてから、

「それ、本当なんじゃない?」

 と言った。橋本が振り返って新道を見た。

「本当なんじゃない?確かに、初島と初島先生には、全く似た所がない」

「あのなあ」

 橋本はうんざりした様子で言った。

「お前は本ッ当に騙されやすいよな。何でもかんでも言うことを真に受けるだろ。やめとけ。人の言うことなんて半分は嘘だぞ」

「それ、どうやって見分ける?」

「頭のいいやつは聞いた瞬間にわかるんだよ」

「えぇ〜!?」

「あ、シンちゃんだ。ここにいたんだ」

 根岸菜穂が現れた。新道は笑い、橋本は気まずい顔をして奥に引っ込んだ。新道は、いつもどおりかわいらしく微笑む菜穂を見て、この子の言うことも半分嘘だったらどうしようと思っていた。

「菅谷くんがまた一緒に勉強会しようって」

 菜穂は楽しそうだった。

「菅谷ん家?ナホちゃん、あの家苦手じゃなかった?」

「菅谷くん家じゃなくて、シンちゃんのアパートでやろうって」

「うちで?」

「お母さんのいる所で勉強したくないんだって」

「あのお母さんいい人なのに、なんで菅谷は嫌がるんだろうな」

「年頃の男の子はみんなそんなものよ」

 菜穂が当たり前のように言った。新道は悲しくなってきた。自分の母親はまだ見つかっていない。もしいたら、自分も同じように母親を嫌がるだろうか、いや、そんなことは想像もできない。

「シンちゃん」

 菜穂がやや真面目な顔になって新道を見上げた。

「何?」

「みどりちゃんは、悪い子じゃないのよ」

 新道は菜穂の目を真っ直ぐ見下ろした。そこに嘘は感じられなかった。

「ただね、時々変になるの。理由はあるのよ?」

「どんな理由?」

「いろいろ辛いことがあるのよ」

「辛いこと」

「でもそれは尋ねちゃダメなのよ」

「なんで?」

「とにかくダメなの、わかった?」

 菜穂は厳しい言い方をした。新道は納得できなかったが、菜穂が嫌がりそうだと思ったので、

「うん、わかった」

 と答えた。しかし気になった。

 ナホちゃんは、何か知っている。

 でもなぜ教えてくれないのだろう?やっぱり自分が貧乏なアパート暮らしなことと関係があるのか、それとも菜穂も半分嘘つきなのか、いや、そうは思いたくない。

「菅谷くんの家政婦さんが、スコーンを作ってくれるって」

 菜穂がそう言ったとたん、新道の目はわかりやすく輝いた。それから2人で楽しく本や学校の話をして、いつの間にか悪い噂のことは忘れてしまった。





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