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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年10月

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2015.10.29 研究所


 こんなに静かな朝なのに……

 風も雨もない日なのに……。



 ショパンの『木枯らし』が建物内を吹き荒れている。

 久方創はコーヒーカップを抱えたままカウンター窓に突っ伏した。頭に麻痺したような圧迫を感じていた。


 いくら秋でも朝からこの曲?


 助手のピアノ狂いには最初から悩まされ続けているのだが、一番困るのがこの『朝の生演奏』だ。せっかく田舎に住んでいるのだから、爽やかな朝を静かに過ごしたい……と普通は思う。久方もそう思っていた。

 しかし、邪悪な助手は違った。


 まわりに人住んでないし、夜中に弾いても誰も聞いてないだろう。


 と考えたようだ。さすがに夜中には弾かないが、早朝、5時か6時頃に突然、嵐のようなピアノソナタに襲われることがあり、久方はそのたびに跳ね起きて、慌てて一階に逃げる。同じ階にいると音が大きすぎて、乱暴な音と異常に速い旋律に、神経を飲まれそうになるからだ。



 しかも、それを注意してやめさせることが、『所長』にはどうしても出来ない。やめてくれと言いたいのだが、実際に助手が降りてくると別な話に流されてしまう。一体何が目的なのか……あまり考えたくない。というより、考えられない。この音の中では。


 結局、散歩に出かけるしかなくなる。



 何をやってるんだ……。



 助手と自分の両方にぼやきながら、コートをつかんで外に出た。

 まだ空は暗いが、少しずつ明るさが出始めている。美しい草原の朝。ただし寒い。息が白くなる。マフラーもしてくるべきだったか。慌てていたから忘れてしまった。

 少し歩き回って、頭から木枯らしの毒を抜かないと、日中頭が働かないだろう。本物の、林のなかを吹く木枯らしにはこんな破壊力はない。冷たく物悲しいが、季節の変わり目を感じさせるし、風情もある。

 やはりあの助手には、そういう感性が欠けているのだろう。





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