2016.12.29 木曜日 サキの日記
私の中の奈々子が落ち着かない。明日、修二とユエさんが秋倉に来てしまうせいだ。おかげで私までそわそわしてなんにも集中出来ない。
所長に知らせたら、
やっと直接修二に会えるんだね!
と、喜んでいるようなので、会うの嫌なんですけどとも言いにくい。
うちの40代の娘とバカも大晦日には来る。また大雪降らないかなと思ってしまう。うちの親とカッパの親、そこに幽霊と所長も加わったら何が起きるだろう?
結城さんは?修二と何を話すんだろう?
やっぱ奈々子の話するのか?
聞きたくないなそれ。
今日、平岸ママは今年最後のフラワーアレンジメント教室を行った。私とヨギナミがついていった。公民館ではなく、老人ホームだった。かなり高齢の人が多くて、手足が上手く動かせない人もけっこういて、『この花、ここに刺して』と頼まれたりした。スポンジに花を刺す力もなくなっている人がいることに驚いたし、そういう人でも花が好きで、『美しいものに触れたい』と思い続けていることも興味深かった。
私は言われたことを次から次へとやっていただけ。ヨギナミはもっと自分から動いていた。言われなくても必要なものはサッと出すし、こぼれた水もサッと拭く。とにかく動きが全然違う。やっぱり接客で働いているとそうなるんだろうか。
私はなぜかおばあちゃん達に『センスがあるわあ』と褒められたり、また遊びに来てと言われたりした。言われたとおりに花刺してただけなのに。ヨギナミには何の言葉もなし。なぜなのか不思議だったけど、きっと動きがプロフェッショナルすぎて、ホームの介護職員と間違われてたんだと思う。人って、自分が一番世話になってる人には甘えて冷たくなるものだから。
帰りの車の中では、平岸ママがきちんとヨギナミを褒めまくってフォローしていた。知り合いのフローリストがやっているという少し遠くの町の店に行き、そこに近いカフェでパンケーキを食べた。個人が趣味でやっているような店で、壁際に暖炉があったけど今は使われていないという。カウンターの後ろには、アイヌの木彫りや、クマや、なぜかセーラームーンのフィギュアまで、雑然と並んでいた。店のお姉さんが『あかねちゃん来てないの?残念』と言ってアニメの話を始めたので、オタク仲間なんだろう。後で知ったが、この人は昔平岸家に住んでいて、秋倉高校にも通っていた先輩だった。一回札幌で就職して、戻ってきたそうだ。
あそこ、あと一年でなくなるのかあ。
悲しいなあ。写真撮りに行ってもいい?
と言っていた。そうだ、秋倉高校は私達が卒業したら廃校になる。そもそも今の人数で学校が残っているのが奇跡だし、経営的にはたぶん赤字だろう。
あと一年ちょっと。急に意識した。受験生だからもちろん勉強しなきゃいけないけど、他にもいろいろ大切なことがあるように思えてきた。
大学は、東京と、札幌の私大を2つずつ受けることにした。一応本命は東京だけど、まだ迷ってる。そもそも受かるかどうかわからないし。
夕食。修平は杉浦の家で本の話を延々と聞かされたらしい。なんでそんなヤバい所行ったのと聞いたら、『図書室の本が何冊か返ってきてないことがわかった』からで、実際3冊回収してきたそうだ。奴の家はどこもかしこも本だらけで、ものすごく暗いそうだ。
先生が行く度に言うんだよ。
『橋本の家に似てる』って。古本屋なんだよなもう。
古本屋みたいな家。
見てみたい。でも杉浦に遭遇したくない。
どうしたらいいんだ。
自分と奈々子のことで頭がいっぱいで忘れてたけど、橋本ってなんで死んだんだろう?所長が聞くと引っ込んでしまうらしい。後ろめたいのか?母は『誰かに突き落とされたに違いない』と言うけど、本人が言いたがらないということは、自殺で、そのことを後悔してるんじゃないだろうか。
所長に聞いてみたけど、やっぱり『わからない』と言う。
ただ、髪が赤いのと性格のせいで、
まわりとは上手く行ってなかったらしいし、
時代もよくなかったから、
悩んでいたことは間違いないと思うよ。
と。
奈々子に『何か知らない?』って呼びかけたけど返事がない。今、何を考えているんだろう?
考えても何も浮かばないので、私は宿題をやっている。西田が『日記を英語で書いてこい。一日10行以上』という、人によっては恐ろしい宿題を出している。
それ、採点するの大変じゃないんですか?と先生に言いたくなる。冬休みが終わる頃にはすごい量になるだろうに。それとも『どうせこいつらには書けまい』とか思ってるんだろうか。
私は英語得意だけど、それでも文法とか単語とかわかんなくて調べてたらけっこう時間かかるので、苦手な人はかなり大変だ。佐加なんて毎日、ファッション雑誌の英語版をほぼ丸写ししてるらしいし。ヨギナミも『人生で一番辛い』とまで言った。英語苦手な上に問題をたくさん抱えているから。かわいそうだ。でも今日は、フラワーアレンジメントとカフェの話でなんとかなるだろう。




