2016.12.22 木曜日 サキの日記
二学期終了。始業式は1月23日。北海道は夏休みが短いのに、冬休みもそんなに長くない。1月いっぱい休みにしてくれてもいいのに。でも暇かな。
こういう時しか出てこない校長の長〜い眠〜い話を聞いてカクッとなった所を隣の杉浦に肩を突っつかれ、ムカついたので叩いて反撃したら向こうもやりかえしてきたので無言でつつき合い戦争をしていたら、河合先生がそっと近づいてきてわざとらしく大きな咳払いをし、まわりからはクスクス笑いがした。先輩達にまで笑われた。杉浦め!あとで佐加にも『笑いをこらえるの大変だった』と言われたし、あかねにも『あんたたちってお似合いよね』とニヤけられた。腹立つ。
帰り、平岸パパの車が校門まで来ていた。ヨギナミを病院まで送るためだった。私と修平も平岸家まで乗せてもらった。平岸パパは娘も乗せたかったらしいが、あかねに『うっせえよハゲ!』と言われて逃げられていた。
ヨギナミは休み中もやることがたくさんありそうだ。私はどうしよう。休みだから文章の練習をしたいけど、暇だとかえって書けなくなりそうな気がする。前の学校休んだ時もそうだった。
平岸ママは既にクリスマスの準備に入っていた。キッチンに食材や飾りが並んでいる。砂糖細工のスノーマンやサンタ、トナカイ、なぜか犬と猫。ケーキの飾りにしては数が多い。近所に配るのかな。お昼は生ハムのパスタだった。
食べ終わってからスマホを見たら、
レティシアが来たよ。
というLINEが入っていた。とうとう来たのか、所長の元カノ。天気が荒れそうだから早めに出発したけど少し遅れたとか、明日の予報は大雪だとか、そんなことをやりとりした。『来てもいいよ』と言ってくれないかなと思ったんだけど、そういう文言は来なかった。
どうしよう。
しばらく行かない方がいいのか、一度行っといた方がいいのか。
行かない方がいいよ。
奈々子のつぶやきが聞こえた。私はアパートの部屋に戻った。カントクにもらった万年筆を取り出して眺めながら、私はこれで何を書けばいいんだろうと考えた。何も浮かばない。途中で止まってた『The Rules of Love』をめくったけど、あまり文章に集中できない。なんとなく開いたページには、You don't both have to have the same rules.とあった。みんなが同じルールで動いているわけじゃない。高い所が苦手な人もいれば平気な人もいる。結城さんは、私と所長はよく似ていて双子のようだとからかう。でも私達は全然違う人間だ。
所長は今元カノと何をしてるんだろう。ヨリは戻るのだろうか。あそこに一緒に住むようになるとか?そしたら私はあまり行かない方がいいだろうか。
なんにも集中できないので平岸家に戻った。外はもう雪が降り始めていた。テーブルにクッキーと小さなスポンジケーキが山になっていて『お好きにどうぞ』という紙が横に置いてあった。私はケーキのかけらを口に入れてから、スマホで古本あさりをした。部屋にある本がまだ読み終わってないのに、また本を買いたくなる。私はおかしいのだろうか。依存症?それっぽいっていろんな人にそれとなく言われたような記憶がある。
早く大人になりたい。でもどうしたらいいんだろう。
その答えがセックスでないことは確かだ。
もちろん親の金で買い物することでもない。
そのうちあかねが来て、お菓子の山を見るなり、
またあたしを太らせる気ね。
と言いながらもクッキーをつまみ、キッチンに行って紅茶を入れて戻ってきた。
今日は久方さんとこ行かないの?
と聞かれたので、『元カノがもう来てる』と言ったらニヤニヤし始めた。
とうとう来ちゃったのね。
しかも明日は大雪よ。外に出れないのよ。悪天候で屋敷に閉じ込められた幼なじみの美少年が愛を語り合うのよ──インスピレーションがわいたわ!!メモ!すぐにメモしなきゃ!
あかねはクッキーが乗った皿をつかんで、持っていってしまった。ダイエットはどうなったんだ。そのクッキー全部食べる気か!?所長で妄想するのいいかげんやめてほしいんだけど。
私は言いたいことを口にする代わりにケーキのかけらを次々と食べ、気がついたらほとんどなくなっていた。
明日は大雪で外に出れない。
何をして過ごせばいいんだろう。動画で何か役に立ちそうなものを探そうかな。本を読むか、いいかげんシナリオか小説を書くか。
私は本をめくったり動画を見たりしながら時々時計を見た。今、所長とレティシアという人が何をしているか、気になって仕方がない。あと結城さんもだ。クリスマスは札幌に帰ると言っていた。何をして過ごすんだろう?誰かに会うんだろうか。




