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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年10月

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2015.10.27 サキの日記


 僕は構わないから、自分のためだと思うなら気にしないでおいで。ただ、僕も用事があるから、いないときもあるけど。



 所長はそう言ってくれた。夏に私が研究所にいたことは、助手にも話してあるそうだ。とりあえずあかねの妄想は伏せておくことにした。あんな話を聞かせたら、下手したら死んじゃうかも。



 でも、かなりクセのある失礼な助手だから、それは覚悟しといて。



 そのあと、所長は使えない助手の話をしてくれた。ピアノに夢中で、練習中に邪魔するとキレるとか、朝の6時にピアノに起こされることがあるとか、予告なく出かけて夜中まで帰ってこないことがあるとか、普段は偉そうなのに、小さな昆虫やリスみたいな小さな動物を異常に怖がるとか、ポット君(例のロボ)と未だに合わないとか、説教臭いとか、噂話が嫌いと言いながら自分は毎日人の悪口を言い続けてるとか……困った人みたいだけどおもしろそうだ。



 実際に会ってないからおもしろいなんて言えるんだよ。来てみなよ。うんざりするから。



 今すぐにでも行きたいけど、今日はそのへんで通話を終えて、カウンセリングに行った。話をするだけだけど。

 今は相談する人がいるけど、秋倉町に行ったらこういうケアはないから、普通に、自分でいろいろ決めなきゃいけない。当たり前の普通の学校生活。

 私にできるんだろうか。

 デイケアに、北海道にいたことがあるという人がいた。街中の公園に『ここで熊出現』みたいな看板があってビックリしたとか、オホーツクの某都市のゴミ捨て場にキツネがいたとか。


 山に食いもんないから降りてくるんだって。


 何の病気かわからないくらい、きちんとした白髪混じりのおじさんが言った。


 居場所がないのは人間だけじゃないんだなあ。




 秋倉高校に編入するとしても、試験はあるだろうから勉強してる。どうせ夜は眠れない。前の学校の成績と出席日数はどうなんだろう。大丈夫なんだろうか。バカは何の根拠もなく『それは心配しなくていい』と言うけれど。

 先生から電話があったときに聞いておけばよかった。


 でも、秋倉町に所長がいてよかった。

 よく知らない町に引っ越すことになるから、知ってる人がいると少しは安心する。平岸家もバカがらみで知り合いではあるけれど、よく知ってるわけじゃない。


 所長のことだって、良くは知らない。

 私は何を勝手に安心してんだろう。

 たぶん『おいで』って言ってくれたからだと思う。

 ほんとに、それだけだと思う。




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