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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年12月

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2016.12.4 日曜日 サキの日記

 朝から体が重かった。気が進まなかったせいだ。でもそんなに悪いことは起きなかった。高条がかなり変な奴だということがわかっただけ。


 高条は、よそのカフェのコーヒーをディスる。

 しかも店の中で。飲んだ瞬間に、


 うわ!マズっ!


 と言ってしまう。私は店員に聞こえたんじゃないかとあせる。確かに、松井カフェのコーヒーに比べたら香りも味もよくないけど、そんなあからさまに口に出さなくてもと思ってしまった。

 店自体は開放的で、ちょうど天気も良くて、大きな窓から日差しが入ってきていて、雰囲気のよい店だった。観光客らしき人達がたくさんいて、そのほとんどがパフェを食べていたけど、私はチーズケーキの方に惹かれた。


 ここのメニュー、ほとんど冷凍か保存食使ってるな。

 これ見たらわかる。


 メニューまでディスり始める高条。曖昧に笑う私。話によると、こっちに来る前、地元の居酒屋でバイトしてたことがあるらしく、調理の裏側を見てしまったらしい。『何時間も煮てます』と言って売ってる角煮が実はレンジで数分でできるものだったとか、業者用の冷凍食品やレトルト食品がかなり出ていて、ほとんど調理なんかしてない店もたくさんあるとか、そんな話をずーっと聞かされた。


 新橋、飲食店でバイトしたことある?

 

 ない。学校祭だけ。


 一回やってみるといいよ。

 人間の裏が見えるから。

 うちで一回働いてみない?


 なんだその勧誘の仕方は。私は「受験勉強があるから」と断った。高条は、進学するか、学校には行かずに動画撮って生きるかで迷っているらしい。進路決めるの難しいよねという話で意気投合してしまった。


 なんかさ、大学に4年もいたら、

 その間に世の中変わっちゃう気しない?


 うーん、でも変わらないものもあるじゃん。

 学歴とか。


 そこなんだよなあ。

 芸人とかユーチューバーでも、高学歴の人多いよね。

 やっぱ頭良くないと、

 ああいう仕事ってできないとは思うんだよね。


 じゃ、やっぱ大学行った方がよくない?


 でも大学でyoutube教えてくれないし。


 ユーチューバーになりたいんだ。


 いや、動画で稼ぎたいけど、

 ユーチューバーにはなりたくない。


 何それ。


 目立つの苦手だから。

『俺が中心!』みたいな感じで画面の真ん中に立って延々と持論を語るの、俺向いてないんだよね。

 他の人撮ってる方が面白い。あ、今撮っていい?


 私を撮るな。カフェを撮れ。

 今パフェ頼んでやるから。


 そういう話の流れで結局パフェも頼んでしまった。しかも私が食べている所をずっと撮られてた。ユーチューバーじゃなくてカメラマン目指せばって言ったら、


 撮るだけもつまんないじゃん。


 と。何がしたいんだお前は。


 カフェを出てから、初めて来るよその町の、人が少ない通りを2人で歩いた。その間も高条はずっとスマホで動画撮ってた。撮影するのは好きで、出るのは好きじゃないらしい。だからって私を撮られても困るんだけど。

 秋倉に帰って、別れ際、高条は松井カフェのチケットを3枚くれた。また第3の4人で集まろうと言って、軽く手を上げて走って行った。特に心配していたようなことは起きず、友達とコーヒー飲んでしゃべっただけって感じ。

 私は何を考えてたんだろう?

 デートっぽいのを期待してたとか?

 それって何だ?




 平岸家に帰ったら、あかねがアイスを食べていた。こっちの人は冬にアイスをたくさん食べる。私も一個もらった。高条にもらったコーヒーチケットを渡したら、


 本当はまた2人で会いたいんじゃない?


 とニヤニヤしていた。でも、そんな雰囲気じゃなかったよと言ったら、それ以上つっこまれなかった代わりに、『友達だと思っていたクラスメートの家に行ったら押し倒された少年』のBL妄想を聞かされた。

 部屋に戻ったら高条から「いい絵が撮れてた」と、私がパフェを食べてる写真が送られてきた。なんだかおマヌケな顔をしていた。でも楽しそう。自分なのに自分じゃない人みたいに見えた。リオに見せたくなったので送ってみたら「かわいい」と言ってくれた。でも本当は、豚まんが甘いものにがっついているようにしか見えてないと思う。

 勝手に人を撮影するのは迷惑だけど、高条はいろいろ試して、自分に向いていることや向いていないことを見つけてる。そこはうらやましい。

 私は何をしたらいいのか。考えたけど思いつかない。

 やっぱり書くことしかないかな。




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