2016.12.1 木曜日 高谷修平
12月。平岸家の食卓に巨大なツリーが出現し、修平と早紀、あかねは飾り付けを手伝わされていた。
「毎年この時期になるとママがはりきっちゃうのよ。あ〜やだやだ」
あかねが手作りのジンジャークッキーを飾りながら言った。早紀は丸いガラスボールを並べて数を数えていた。全ての飾りを偏らずに全体に均等になるようにしたいらしい。
「そんなのてきとうでいいじゃん」
とうっかり口走った修平は、怖い目でにらまれてしまった。しかも、飾り付けを手伝おうとしたら、
「カッパは触るな」
と、箱ごと取り上げられた。
「あんたこれ、つけてよ」
あかねが大きな星を修平に向かって投げた。修平は踏み台に上がって、ツリーのてっぺんにその星を、丁寧に差し込んだ。
「よ〜し!」
それだけでなぜかテンションが上がった。家でも病院でもない場所での、初めてのクリスマスが、もうすぐやってくる。
「クリスマスプレゼントなんだけど」
図書室で伊藤が言い出した時、修平は少し身構えた。
「まさか全員分用意しろとか言わないよね?」
「まさか」
伊藤はちょっと笑ってから、
「でも、佐加とかはお菓子とか小物とか交換し合ってるから、何か小さいものは用意したほうがいいかも。ホンナラ組も絶対なんか施せって言ってくるし」
「女子ってそういうの好きだよね。でもホンナラ組は何なの?」
「お坊さんの格好をして、『俺達は仏教徒だ。クリスマスなんか関係ねえ!』って言いながら、托鉢の真似してみんなにものをねだるの。毎年やってる」
「何その悲しい抵抗」
「人それぞれ楽しみ方はあるってこと。で、図書委員は本を交換しようって原田先輩と話してたんだけど」
「本?」
「自分が好きな本をお互いに送り合うの。自分では絶対選ばない本になって面白いしょや」
「え〜と、それはつまり、俺が伊藤と原田先輩のために本買うってこと?」
「そうです。もちろん私も高谷と先輩に本を贈ります」
「え〜」
「え〜とは何ですか?」
「いや、だってあの先輩、絶対また『俺が書いた本』とか、やたら政治的な本勧めてくるじゃん」
「原田先輩はほっとけばいいんです。問題は、私が読む本を高谷が選ぶということです。ちゃんとした本にしてください。マンガとラノベは禁止です」
「え〜!?マンガにも名作いっぱいあるって!」
「ダメです」
伊藤は事務的に言ってから、急に目を輝かせた。
「知ってる?昔のイギリスでは、本はクリスマスプレゼントの定番で、作家たちはクリスマスシーズンに合わせて仕事をしてたんだって。ディケンズとかがまさにそう。シャーロック・ホームズの最初の話も、クリスマスシーズンだったらしいよ。出たの」
「へー」
「今でも『クリスマスに贈るブックリスト』は存在するそうです。昔は今みたいにネットもテレビもなかったでしょ?だから本を読むのがホリデーシーズンのよい過ごし方だったんだって。いい話だと思わない?私、パーティーとかうるさいイベントは好きじゃないから。やっぱりクリスマスは知的に、神聖に過ごしたいしょや」
「あ、そう」
「なんですかそのやる気のない反応は」
「いや、あのさ、何の本選べばいいか考えてた。本整理してくる」
修平はカウンターを離れて本棚の奥に向かった。
「やべぇ」
伊藤に聞こえないようにつぶやいた。
「何贈るの俺?伊藤相手に変な本選べないじゃん」
『面白いことになりましたねえ』
新道先生がニコニコ笑いながら現れた。
『ある意味、君は知性を試されているわけだ。これは大変だ。下手な本を選ぶと一生が終わりそうですねえ』
「いきなり出てきて怖いこと言うのやめて」
修平は頭を抱えた。
「でもさ〜!そうだよな〜!試されてるよな〜!!うかつに変な本選べないよな〜!しかも伊藤、主要な本は読み終わってそうだし」
『まだ20日以上あります。探しましょう』
「いや、だって配送にかかる日数とか考えたらそんなに時間ないじゃん。うわ〜!どうしよう!?」
修平は本気で悩み始めた。




