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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年11月

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2016.11.26 土曜日 サキの日記

 第3グループでマンボーに行った。あかねだけがはりきっている釣り対決。しかし、一番多く釣ったのは修平だった。予想外。威張るカッパ。悔しがってもう一回やるぞを連発するあかね。ゲームよりも動画の撮影に夢中の高条。撮るのやめてくれないかなと思ったけど、


 10年後に見たら絶対懐かしくて笑えるから。


 と言ってスマホを下ろしてくれない。こないだ、おじいさんが残した8ミリを見たせいだ。思い出の映像作りに目覚めてしまったらしい。

 佐加は少し遅れて昼頃に来た。先に病院に行ってヨギナミに会ってきたらしい。昼はパチンコに来ていた奈良のとっつぁんが、近くのそば屋でおごってくれた。道産そば粉100%を売りにしている店で、そばもいいけど、天ぷらがめっちゃおいしい所だった。


 さっきおっさんに会ったよ。

 マンボーの話したら懐かしがってた。

 連れてくればよかったかな〜?


 佐加が言った。橋本とヨギナミのお母さんの関係ってどうなってるんだろう。それと、ここに連れてくるならヨギナミの方がよくない?って言ったら、


 ヨギナミさ〜、真面目だから、

 ゲーセンとかパチンコはよくないって言うんだよね〜。


 と。そんなヨギナミのために、佐加は今日もパチンコのおじさん達に景品をたかり、お土産のお菓子を大量に入手していた。あかねとの勝負にも加わって、高条が釣ったアニメキャラのバッジを巻き上げていた。

 私は香水一個とバッジとぬいぐるみを取ったけど、どれも好きじゃなかったので佐加にあげてしまった。


 サキ、テンション低いね〜。


 と佐加にも言われた。リズムゲームやったし自分ではけっこうがんばったつもりなんだけど、やっぱり、少しぼんやりすると心が研究所に飛ぶ。結城さんどうしてるかなとか、所長のあの女の人は何なんだろうとか。

 高条はあかねと佐加がリズムゲームしてるのを撮っていた。たま〜にあかねの大きな胸元をアップで撮っているように見えた。やらしい。修平は疲れたのか、みんなを眺めてニヤニヤしてるだけで自分は何もプレイしていなかった。

 ゲーセンってそもそも何のために存在してるんだろう。いつからあるんだろう。たぶん戦前はなかったはずだ。パチンコはよく世の中に非難される。なのにゲーセンはあまり言われない。ゲーム業界のせいだろうか。そもそもこういうエンタメって、人間にとっていいものなんだろうか?暇つぶし以上の意味なんかないんじゃないだろうか。

 リズムゲームは佐加の大勝。飛び跳ねて喜ぶ佐加。大げさに悔しがるあかね。ニヤニヤしながらそれを見ている男子2人。みんなが盛り上がるほど、心が冷めていく私。

 私はなんでここにいるんだろう?


 新橋、今日元気ないね。


 高条が話しかけてきた。動画さえ撮っていなければ親切に見えたのに。高条は、パチンコのおじさん達の生態に興味が湧いたらしく、ドキュメンタリー風に何か撮らせてもらえないかなとか言ってた。

 

 人ばっか撮ってないで自分でユーチューバーやれば?


 俺ああいうの向いてない。一人で盛り上がれないから。


 だからって人を勝手に撮ってネタにしないでくれ。

 あかねが近づいてきて、リズムゲームで勝負しようと言ってきた。やる気がないのであっさり負けた。でも、体を動かすと少しは楽しい。少しだけ。

 みんな今日は楽しかったようだ。

 私は一人で沈んでた。バカみたいに。



 部屋のベッドでぼんやりしてたら、奈々子が出てきた。部屋の真ん中に立って、私をじっと見下ろしていた。


 私、なんでこうなの?


 私は尋ねた。彼女はずっと私に取りついていたから、私のことは何でも知っているはずだ。


 なんで私だけ、他の人と切り離された感じがするの?


 奈々子は、


 私もそうだったけど、わからない。


 と言って、さみしげな顔で姿を消した。


 役立たず。


 私はつぶやいてから、所長に今日の出来事を送った。


 佐加、病院にもいたよ。

 どんだけ元気なんだろうね。


 それから、


 病院で平岸の奥さんにも会ったよ。

 裁判を止めているのは、

 平岸さんと奈良崎のあのおじさんみたいだ。

 たぶんこのまま和解に持っていきたいんだと思う。


 そうだ、そういう問題もあったっけ。

 でも所長、

 また自分のこと忘れてるんじゃないだろうか。

 もうすぐ元カノが来るのに。

 本当にヨリを戻したいんですか?と聞きたかったけど、今日は聞けなかった。




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