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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年11月

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2016.11.24 木曜日 サキの日記

 東京のバカから『雪だ!大雪だ!』というバカみたいなLINEが大量に届いた今日、秋倉は普通に天気がよかった。ただし寒い。ずっとマイナス気温。早足で帰ってきた。ここまで寒いと寄り道する気が一切しない。

 試験が終わったので、本当は所長の所に行っていろいろ聞きたかったんだけど、外に出る気がしないのでLINEで軽く『来月ドイツから来る人ってどんな人ですか?』と聞いてみた。


 僕が初めて、本気で愛した人。


 全然軽くない答えが返ってきてしまった。


 でも、ダメだったんだ。

 だから、なんで今さら日本に来るのかわからない。


 その『ダメだった』が何を意味しているのか聞きたかったけれど、どう聞いていいかうまい言い回しが思いつかなかった。バカがたかが数センチの雪で騒いでいる様子をバカにした文章を送ってしまった。


 サキ君のお父さん、札幌の人だよね?

 雪でそんなに驚くもの?


 そうなんですよ。

 東京に長く住みすぎてバカ度が増すとそうなるんです。


 どうでもいいやり取りに時間を費やしてしまった。私は平岸家で、あかねとカルボナーラを食べながら、所長の元カノの話をした。修平は私達がしゃべっている間、何も言葉を発さずにそこにいた。


 あのラブラブ日記の女が来ちゃうのね!

 もしかしたら、久方さんをドイツに連れ去ってしまうかもしれないわよ。どーする?ウフフ。


 あかねの頭はいつだって妄想でいっぱいだ。私は、その女の人があの建物に住みついたらどうしようと思っていた。私が行きづらくなってしまう。

 クリスマスプレゼント。所長と結城さんにあげようかなと思ってたんだけど、もしかしたらその人の分も買っといた方がいいのかな。まだ一ヶ月ある。落ち着かない。これからずっとこんな感じで一ヶ月過ごすのか私。進路だってまだ決まってない。

 東京の入れそうな私大3つくらいに絞り込んだけど、そもそも大学に行く意味あるんだろうかとか思ってしまう。強く『これをやりたい!』と思えるようなものがないせいだ。とりあえず行ったほうがいいから大学行く。そんなんでいいんだろうか。

 もう何もかもが迷いの道に入ってる。

 岡潔の『情緒と日本人』に、情と愛は違う、と書いてあった。情は心が通い合う。愛は自他対立し、いずれ憎しみに変わると。

 情。

 私が求めてたのってこれなのかな。人情ってやつ。それで人にすり寄っていってことごとく失敗する。心の通い合う相手がほしい。でも相手は、そんなことは望んでいない。私の中を流れている、情を求めている何かの行き場がない。

 今まで、まわりの人がうまく受け止めてくれていたんだ。劇団の人とか、バカとか、カントクとか、所長とか。

 でも私は。

 私は?


 何がしたいのかさっぱりわからない。

 進路もそうだし、人に対してもそう。


 何かがおかしい。何かが間違っている。

 そう思うことはない?


 いつか奈々子が言っていたことを思い出した。彼女なら何か知っているのではないかと思ったけど、呼びかけても念じても出てこない。なぜだろう。出てきてほしくないときは出てくるくせに。

 また音楽の授業の時にでも出てくるかな。


 これ書いてたら眠くなってきた。

 試験終わったし昼寝してもいいよね。






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