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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年11月

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2016.11.23 水曜日 祝日 サキの日記

 朝ごはんを食べてから、所長に『今日行ってもいいですか』と聞いた。午前中は病院に行くから昼過ぎにおいでと言われた。橋本がまた出てくるようになったんだろうか。

 明日は英文法と世界史の試験なので、午前中は世界史の教科書を読んでいた。世界史も好きだ。物語みたいなもので、教科書はノンフィクションの本と同じだ。読めばわかる。どうして数学や物理の教科書は、読んでもわからないような書き方をしてるんだろう?

 外は少し歩くだけで危ないと思うくらい寒い。寒気がやってきて、今年初めて、一日中マイナス気温だ。本当は外に出ないほうがいい。でも、勉強ばかりしていても気分が落ち着かない。

 研究所の玄関はいつも通り鍵が開いていて、中に入るとかすかに暖かい空気の流れがあった。1階の暖房の前に猫達がいて、所長がそばにしゃがんで、かま猫の背中をなでていた。その後ろ姿がなぜか、ものすごく寂しそうに見えた。

 ポット君が廊下側から近寄ってきたのでコーヒーを頼んだ。今日はピアノの音がしない。所長に聞いたら、


 保坂君がさっき来て、一緒に出かけて行ったよ。


 と。試験中に何してんだ保坂。

 所長はいつもの様子に戻っていた。ドイツのあの人の話は今日は出なかった。


 今日寒いからかなあ。猫達がここの前から離れないんだ。だから僕も家の中で過ごそうと思って。


 私達は平岸ママが作った甘納豆入りの赤飯おにぎりとザンギを食べた。最近のとりとめのない話をした。今日の午前中、橋本がヨギナミのお母さんに会いに行った。そこにはヨギナミもいて、本を読んでいたそうだ。親子が全く会話しようとしないのが心配だと所長は言っていた。私は、試験中の祝日まであの母親と病院にいなくてはいけないヨギナミがかわいそうすぎると言った。


 そういえばまだ試験中なんだね。

 サキ君ここに来てても大丈夫?


 一番大丈夫じゃない数学がもう終わりましたから。


 それから、猫たちがエサを食べるのを眺め、暖房の前から動いてほしいなと思って、猫じゃらしとかおもちゃで刺激してみたけど、2匹ともこっちを見るだけで全然動かない。あったかい所から離れたくないようだ。

 今日、所長は黙り込んでいる時間が長かった。やっぱりレティシアという人のことを考えているんだろう。一体何があったんだろう?聞きたいけど、聞いてはいけないような気がする。またパニックを起こされても困る。

 私はモヤモヤしたものを抱えながら、平岸家に帰った。

 夕食のちょっと前、『クリスマスに何欲しい?』と母から聞いてきた。ちょっと考えさせてと言っておいた。たぶんアマゾンになるけど。

 クリスマスか。もう年末が近い。そうだ、進路を今年中に決めなきゃいけない。東京の私大を受けようと思ってる。秋倉も好きだけど、やっぱり古本屋にすぐ行ける環境が恋しい。街歩きから得られるインスピレーションが恋しい。私は都会向けの人間だ。田舎に来て暮らしてみてそれがわかった。母が前『本屋のない町に行って大丈夫?』と言っていたのは正しかった。なんか悔しい。でも事実だ。

 せめて図書館が町にあればよかったのかもしれない。学校の図書室があるけど、やはり本屋とはある情報の質が違う。何て言うのだろう、リアルタイム感?ネットの本屋やアマゾンとも違う。本当のリアル本屋の感覚だ。

 本屋が無性に恋しくなってきた。神保町に行きたい。住んでた時はあまり行かなかったのに今めっちゃ行きたい!






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