表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年8月
6/1131

2015.8.20 サキの日記




 また、同じ夢を見た。



 何かに追われて、

 逃げている夢。


 髪の長い、高校らしい制服を着た女の子と、小さな子供が二人。

 自分がその女の子なんだけど、なぜか傍目から見ているかのように、映画でも見ているようにその二人の後ろ姿が見える。


 何から逃げているかは思い出せない。




 朝起きて、自分がまだ秋倉の平岸アパートにいることを思い出す。

 私は逃げている。

 逃げ切れる気がしない。

 だけど、帰るまでにはまだ一週間以上ある。



 平岸ママと一緒に町民会館へ行った。フラワーアレンジのレッスンのお手伝いで、一応千円ほどくれる、作ったものは貰えるというからついていくと、生徒はほぼ70歳以上のおばあさんで、トルコギキョウとコルダータ(わざわざ取り寄せたらしい。赤みがかった緑の葉っぱ)それから名前が覚えられない葉っぱを大雑把に給水スポンジ(私の仕事はこれを水につけておくだけだった)に挿して、あとはお茶を飲みながらゆっくり世間話してるだけ。

 花よりはおしゃべりが目的なのだろう。若いのが珍しいのか、私はおばあさんたちから質問責めにあった。友達とか彼氏のことを聞かれて、笑顔でかわしながら心に何か刺さるのを感じた。


 人間関係には、

 ほとほと絶望してる。


 私の書く文章が、女子高生らしくない固い文体になるのは、友達がいなくて本や映画や舞台ばかり見て過ごしたからかもしれない。


 だいいち、恋愛の話しかしない子となんか、話すことないから仲良くできない。



 私にとっては、花は食べ物と同じだから、食費と同じように毎月の予算に組み入れていますよ。

 平岸ママがそう言うと、周りが一斉に称賛の眼差しを向けた。

 そんなもん枯れてしまうから金の無駄じゃないかという人もいますけどね、食べ物は食ったらなくなるんだから要らないなんて人はいないでしょう。空間にも美しさという栄養が要りますよ。


 どっかの自己啓発みたいな話を聞きながら思ったのは、私にとっての花は、やはり本とか、芸術だということだ。



 平岸家に戻ると、玄関前に制服メガネのあかねがいて、誰かに袋を渡しているところだった。

 よく見たら、所長の畑にいたあのヨギナミだった。


 お米ヨ。


 あかねはめんどくさそうにちらっとこちらに視線を投げてそう言うと、帰ってきたばかりの母親には何も言わずに中に入ってしまった。


 母子家庭なんだけど、お母さんが病気でね。

 平岸ママはゆっくりと引き戸を開きながらつぶやいた。


 なんにしても、食べていくのは大変なんだわ。

 誰かに食べさせなきゃいけないなら、なおさらね……。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ