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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年10月

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2015.10.24 秋倉の草原


 今日は雲の多い晴れの日で、複雑な形をした雲が、青い空に立体的に浮かび上がっている。

 久方創はいつも通り草原に出て、熱心に空を見上げていた。

 風が強く、雲の流れも速い。いろいろな形が現れては消えていく。


 しばらくそうやって空に夢中になっていたが、そのうち寒くなってきて我に返った。自分が危険なほど凍えているのに初めて気がついた。久方はたまにまわりの温度を忘れる。体感気温が狂っているのかもしれない。



 震えながら戻ると、玄関に平岸あかねがいた。



 ママがチーズケーキを大量生産したから。うちには3人しかいないのに。



 オタク少女は箱を久方に押しつけると、ニヤニヤしながら去っていった。またよからぬ妄想を抱いているに違いない。


 ここにも2人しかいないんだけどな……。


 と思いながら部屋に入り箱を開けたら、直径20センチはありそうな立派なものが入っていた。ミントの葉が乗っている。なぜあの奥さんはこんなものを大量生産してるのだろう。なぜここが配布リスト(があるのかどうかは知らないが)に入っているのだろう?さっきのあかねの態度といい、何かの陰謀ではないか?



 久方はヒーターの前に座りながら思い出していた。こういうケーキを一緒に食べながら過ごしたい人のことを。それはもう無理だということも。


 久方は立ち上がると、ケーキを箱ごとキッチンに運んで冷凍庫に放り込み、ポット君にコーヒーを頼んで、自分はヒーターの前に戻った。


 わざわざこんな遠いところまで来たのに、なぜ、思い出させるようなものが出てくるのだろう。


 ポット君は思い出すことがなくて幸せだなあと、コーヒーを運んで来たときに言ったら、何のこと?と疑問を示す表情が表示された。



 出先から帰った助手は、冷凍庫に入っている箱を見て悲鳴をあげた。



 また来たのあの変態!?



 怒りながらも、ケーキは丁寧に解凍して、機械のように正確な角度で6つに切り分けて食べていた。

 久方が夜中に飲み物を取りに来て冷蔵庫を開けたときには、『一人3個まで』という付箋が箱に貼りつけてあった。


 そんなに食えるか!


『所長』は心の中で怒鳴り、冷蔵庫の前で座り込んで顔を両手で覆った。




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