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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年10月

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2016.10.31 月曜日 サキの日記

 奈々子を罵りたいのに出てきやがらない。出てこいと叫んでたら隣の修平に『うるせー!』と怒鳴られた。カッパの分際で生意気な。

 朝ごはんを食べに平岸家に行くと、焼きたてのパンのいい匂いがした。平岸ママが、


 本当は今日がハロウィンでしょ?


 と、お化けやかぼちゃの形をした、かぼちゃあんが入ったパンを大量生産していた。2つ食べて、残りは学校に持っていってみんなに配った。伊藤ちゃんも、


 本当のハロウィンは今日です。


 と、お菓子の入った小さな袋をくれた。ヨギナミと佐加もお菓子を配っていたし、私も何か持っていけばよかった。

 今日は風が強く、授業中も窓がガタガタ揺れて落ち着かなかった。所長からは昼頃に『今日は出かけていていないから』と連絡が来た。また橋本が病院に行ったんだろうか。所長、昨日すごく疲れてるみたいだった。大丈夫なのかな。

 アパートに帰って勉強してたら、母から、


 最近、所長さんに会った?


 と聞いてきたので、昨日の祭りの話を簡単に書いて送った。


 私も行きたかったなあ、お祭り。

 昔、新橋が金魚を5匹も釣ったことがあったわ。

 全部欲しい人に譲っちゃってたけど。


 その話、バカから何度も聞いたことあるんですけど。

 バカの方は毎日のようにパパピョーンとかおはピョーンとか送ってくるので、スルーするのがけっこう大変だ。

 ちょっと問題集やったら疲れてきた。学校でもみんな祭り疲れでやる気なくて、河合先生に『しっかりしろ〜』と言われてた。


 旭ちゃんと私と幸平はね、

 近所の空き地で一緒に遊んでいたのよ。


 母がひとり言のような文章を送ってきた。


 でも旭ちゃんは死んで、幸平も中学の時死んだ。

 私も死ぬつもりだった。


 私も死ぬつもりだった。

 ドキッとした。


 でも高校で新橋に会ってしまったの。

『殺しても死ななそうな男』って新井が言うような男に。


 新井というのはカントクのことだ。


 ところでサキちゃん、好きな人いないの?


 いきなり話題が変わった。


 男に興味ございません。


 と送っておいた。結城さんのことは知られたくない。

 そしたら、


 男に興味のない女なんているの?


 とうざい質問が来た。『いくらでもいるわ!』と返したらもう来なくなった。


 本当は興味あるくせに。


 背後に奈々子の気配がしたので、私は猫の杖をつかんで襲いかかった。でもかわされた。奈々子が宙に浮いたからだ。


 こないだはごめんって謝りに出てきたの!

 落ち着いて!


 天井に貼りついた幽霊が言った。


 謝って済むと思ってんのか!?

 人前であかねにボコボコにされたじゃん!


 私もああなるとは思ってなかったんだってば!


 消えろ!昭和生まれの魔女め!


 逃げ惑う奈々子を追いかけてあちこちを叩きまくっていたら、また修平が隣で、


 うるせーって!何やってんのマジで!?


 と叫んだ。新道が出てくるんじゃないかと思ったけど、来なかった。奈々子の姿も消えていた。





 舞台で歌って踊る美少年に一目惚れした青年。

 追いかけていくうちに2人は相思相愛になり、

 行く先々で秘密の情事に溺れるのよ。

 ウフフフフ。


 翻訳:ステージを見て思いついたから妄想してみたわ。


 夕食。マグロ丼に向かってつぶやくあかねをみんなで無視した。今日は平岸ママがいて、平岸パパの方が出かけていなかった。たぶんヨギナミのお母さんの所に行っているのだと思うけど、ここでは誰もその話題を出さない。

 気になるけど、ヨギナミや保坂に聞くのもよくないような気がした。

 結城さんに『何か変わったことありましたか』って聞いてみたら『何もないよ』とだけ返ってきた。もう少し所長の様子とか、橋本が何してたとか聞きたかったのに。でも、しつこいと思われるのも嫌で、これ以上何も送れない。

 あ〜!何かモヤモヤする!

 BBCの浄化力に期待して英文をいくつか聴いてみたけど、今日はダメだった。また米津玄師の『アンビリーバーズ』を一曲リピートして、ぼんやりと夜を過ごした。



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