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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年10月

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2016.10.24 月曜日 サキの日記

 ヨギナミのお母さんが入院した。学校を休んでいた。佐加によると、かなり重いらしい。しばらく出てこれないだろうとのことだった。保坂も来ていなかった。家で何か起きてるらしいことは、第2グループのひそひそ話から伝わってきた。

 所長に何度か連絡を取ろうとしたけど返事がなくて、授業が終わった頃にようやく、


 ごめん。寝てた。


 と言ってきた。昨日の夜、橋本が体を使って病院に行ってたので、所長まで疲れてしまったらしい。

 私は研究所に行った。結城さんに会うのは辛いけど所長に話を聞きたかった。


 伝わってくるんだよ、あいつが動揺してるのが。

 それで僕まで胸が痛くて心が重くて頭も痛い。

 

 所長はソファーで横になっていて、濡れタオルで頭を冷やしていた。


 保坂の狂った奥さん、

 あさみさんを裁判所に訴えたんだよ。

 

 所長が怒った声で言った。


 本人に何も知らせずに、いきなり訴状を送った。

 それでショックを受けたんだ。


 そうだったのか。第2グループが気まずそうにひそひそ話してた理由がやっとわかった。

 結城さんが降りてきて、


 保坂から何か聞いてる?


 と私に尋ねた。学校休んでますと言ったら『そっか……』と心配そうにしてまた2階に行った。珍しくピアノが聴こえない。


 サキ君、天気がいいから外に出よう。

 僕も少し歩かないと目が覚めそうにない。


 所長がそう言ったので散歩に出た。すごく久しぶりのような気がした。

 こんな時なのに、空は素晴らしく晴れわたっていた。澄みきった青、黄色に染まった木の葉は金色に輝いて見える。風が吹くと落ち葉が地面をすべり、ざあっと音を立てる。その瞬間、時間が止まったように感じるのだ。美しさに導かれて。


 ああ、こんな時でも自然の美しさは変わらない。

 本当に、何が起きても変わらないんだ。

 少しずつ冬になっていくけど。


 空気が冷たくなって、すでに冬が来ていると所長は言った。冬の空気には独特の匂いみたいのがあるそうだ。冷たくて透き通った匂いが。


 ヨギナミ、ずっと病院にいる気かな?

 僕、橋本をまた病院に行かせたいと思うんだけど。


 所長がそんなことを言い出した。


 だめですよ所長。これ以上人生乗っ取られてちゃ。

 それに、怖くないんですか?

 私こないだ乗っ取られた時めっちゃ怖かったんですけど。


 だけど、ヨギナミとあさみさんのことを一番わかってるのはあいつなんだよ?

 病院はたしか、夜は付き添いの家族しか出入り出来ないし、昼間行かせるしかないと思う。


 私は反対ですよ、所長。


 強めに言っといた。


 どーしてもやるんなら、私がついてって監視します。


 思いつきで言ってみたら、所長はびっくりしてた。


 だって何されるかわかんないじゃないですか。それに、私だってヨギナミが心配なんです。一度行こうと思ってたんです。


 それは本当だった。お母さんにつきっきりで学校にも来ない。バイトもたぶん休んでて、しかも変な女に訴えられてる。どうやって乗り切る気だろう?私は自分の親が倒れた所を想像することすら出来ないのに(2人とも殺しても死ななそうだと思っていたので)。


 わかった。ありがとう。


 所長は金色に染まった山を見ながらつぶやいた。


 よし。

 やっと橋本と話が出来る。


 帰り道で奈々子の声がした。

 妙にはりきっているように聞こえた。







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