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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年10月

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2016.10.18 火曜日 体育の授業 高谷修平

 体育。天気は良いが気温はもう低くなっているため、体育館でバスケットボールをすることになった。

 今日は杉浦が風邪で休み。高谷修平と須磨今スマコンが見学で、どのグループも3人ずつの戦いになっていた。

「なんでお前見学してんの?めっちゃ元気だろ」

 修平が隣のスマコンに文句を言った。

「あら、あなたにはおわかりにならないのかもしれませんけど、今日は天の気との接続が悪いの。おかしいわね。こんなに晴れているのに。余計なスピリットのノイズを拾ってしまっているのかしら」

「ごめん意味わかんないそれ」

「あなた、本当に大丈夫なの?体調は?」

 スマコンが尋ねた。修平は答えなかった。

「まあいいわ。人にはそれぞれ事情があるものですから」

 コートから『よし!』という声がした。平岸あかねのシュートが入ったのだ。今は第1と第3が戦い、今ので第3が1点リードした。第2の3人はコート横で仲良く話していた。

「わたくしの誕生日が10月20日ですの」

「あっそ」

「あなたにも招待状を送りましてよ?」

「えっ?」

「今日届くと思いますけど」

「それ、行かなきゃダメなやつ?」

 修平は気が進まなかった。あの家にはいい思い出がないし、プレゼントを買うのも面倒だ。

「プレゼントを用意する必要はなくてよ。どうせ平岸の奥様が何か持たせてくださるでしょうから」

 スマコンが考えを読んだかのように言って笑った。

「伊藤も来るし、奈良崎も保坂も来てよ?」

「高条とか杉浦は?」

「呼ぶ必要ありませんわ」

 ぴしゃりと言われた。あまり好きではないようだ。

「最近、久方さん達と何かありまして?」

「最近は、俺と久方は幽霊と仲良くしてる。サキは毎日ケンカして先生に怒られてる」

「オーラが混乱しているものね。見ていてわかるわ」

「サキ?」

「そうよ」

「どんなふうに?」

「性的に混乱しています。ウフフ」

 スマコンがにやけ笑いをし、修平は引いた。

「男の方に説明するのは難しいのよ。ポルノみたいなことを想像したのなら、見当違いもいいところですから、地にひれ伏して反省なさい。わたくしが言っているのは、そうね、愛着の持ち方の問題とでも言うのかしら」

「愛着」

「『かわいい』『好き』『愛してる』の違い。いや、支配、平等、相互理解とでも言うのかしら。わたくしもはっきりわかっているわけではないのよ?だって、まだ16歳です。わたくし達、みんな同い年の子供ですものね」

「よくわかんないけど、スマコンっておばさんっぽい」

「まあ!!失礼ね!みんな聞きまして!?高谷がわたくしをおばさん呼ばわりしたのよ!」

 スマコンが大声で叫んだ。奈良崎と佐加が爆笑し、ヨギナミと伊藤がこちらをきつい目でにらみ、藤木と保坂はにやけ、早紀と高条、平岸は無視した。

「お〜ま〜え〜!!」

 修平がスマコンに向かってうなった。

「伊藤にちょっかいを出す不届き者には、これくらいの制裁は当たり前よ。まあ、冗談はこのくらいにして」

「冗談!?今の冗談で済む!?」

「先に失礼なことを言ったのはあなたよ。それより、問題は新橋さんと神崎という方。ケンカばかりしているとゴーストが不安定になって、余計に外に出たがるかもしれなくてよ?負担をかけてはダメ。新橋さんにそう言ってあげなさい」

「自分で言えば?」

「あいにく、そちらのグループの女子とは仲良くありませんから」

「え〜……」

 コートに目を戻す。第2と第3の試合が始まったが、奈良崎があっという間にシュートを決め、高条が『うわー!』と叫んだ。

「あいつ背高いから有利だよな〜」

「あら?それを言ったら、一番高いのは藤木よ?」

「でもあいつボール苦手って言ってた。柔道とか陸上の方が好きだって」

「個人プレーが好きなのね」

「奈良崎ってさ、勉強以外は何でも出来るよな〜」

「成績はオール2よ。体育も確か2よ」

「えっ?何で?」

「嫌いなものの時は本当にやる気なさそうだからよ。態度の問題」

「あなたたち、見学はおしゃべりの時間じゃないよ」

 南先生が注意しに来た。

「後で上手いシュートの打ち方、レポートに書いて出しますよ」

 修平が笑って言った。

「あら、本当?楽しみにしてていい?」

「もちろん」

 南先生は楽しそうに去った。

「あなた、本当に口が上手いわね」

「今のは『おもしろい生徒』の仮面」

 修平が言った。

「スマコン、人の未来が見えるだろ」

「いえ?わたくしの力はそういうものではないのよ?」

「え?」

「あくまで今のことを感じ取る。それが未来とつながっているから、後で振り返ると未来を予知したように見えるだけよ」

「そうなの?じゃ、今、俺はどんなふうに見える?」

「前より調子がよさそうね」

「ほんと?」

「少なくとも、修学旅行の時よりはね」

「やった!」

 修平は素直に喜んだ。

「先生のことはわかる?」

「今は全く気配を感じませんけど」

「マジ?どこ行ったんだ?また沈んでんのか?」

「あなたの調子がよいからよ」

 スマコンが言うと、修平は下を向いた。南先生がホイッスルを吹いた。試合は第2グループの圧勝だった。伊藤が保坂や奈良崎とハイタッチし、スマコンの所にも来て同じようにした。

「先生を自由にしてやりたい」

 修平が言った。

「そしてあなたは死ぬ気?やめなさい。誰も望んでいないわ」

「だけどさぁ」

「もちろん、ずっと今のままではいけませんけどね」

 第1グループと第2グループが戦い始めた。高条が修平に近づいてきた。

「土曜にさ、俺ら4人で札幌行かない?」

 高条は前置きもなくいきなり言った。

「札幌?」

「ほら、修学旅行の時平岸が言ってたじゃん。こんど第3グループでどっか行こうって。こないだの久方さんとこの集まりは佐加達のせいでただのうるさいパーティーになったからさ、今度こそ4人で出かけようって」

「札幌か〜」

「俺の知ってる人が住んでるからそこ行くんだけど、どう?」

「いいね」

 体調に不安はあったが、修平は行きたいと思った。

「じゃ、後で詳しい日程決めよう」

 高条がコートわきに戻って、平岸と早紀に何か言っていた。平岸あかねは笑っていたが、早紀は無表情だった。

「よかったわね。第3も仲良くなって」

 スマコンが言った。

「そう?全然実感ないんだけど」

「たぶん、札幌で何か起きるわよ」

 スマコンが修平の目をじかに見た。

「お忘れじゃないでしょうね?あなた達は幽霊達の故郷に行こうとしているのよ。懐かしくなったスピリットが何かしないとも限らなくてよ」

「わかった。そういや先生、札幌行きには反対してたな。戻って来たらまた何か言われそうだな〜」

 ヨギナミのシュートが入って、佐加が『イェーイ!』と叫んで跳ね回った。昨日具合が悪かったのに今日は元気そうだ。

「高谷」

 スマコンがコートの伊藤を目で追いながら言った。

「本当に辛いのは、たぶん、これからよ」

「わかってる」

 修平も伊藤を見ながら言った。

 伊藤は、ジャージ姿でも光って見えた。





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