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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年10月

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2016.10.6 木曜日 サキの日記

 修平はまた熱出したとかで食事に来ない。日曜までに治るんだろうか。いなきゃいないで所長や佐加と話すからいいけど。

 台風が低気圧に変わって、秋倉は今日一日雨の予報。時々降り方が激しくなって屋根から聞こえる音が銃撃戦みたいで怖い。昼前にスマホを持って平岸家に移動した。

 平岸ママに日曜の集まりの話したら、はりきってごちそうを作られそうな様子になっていた。何が出てくるか楽しみなような怖いような。昼食の時、あかねが、

『山奥の屋敷に集まる王子たちの愛の饗宴』

 のBL妄想を始めたため、私はスープカレーを持ってテレビの間に逃げた。今からこうでは研究所で何を創作されるかわかったものじゃない。

 研究所に行きたかったけど雨が弾丸すぎる。佐加からも海が荒れて怖いと言ってきていた。ヨギナミは今日もバイトなんだろうか。

 私はまたLINEの画面を見て結城さんに何か送ろうと思って迷った。でも何も送れなかった。やっぱりこわい。

 

 所長からは2時頃に猫の写真が来た。白い猫だ。


 雨のせいか建物に入ってきたんだけど、ドアの前で止まっちゃって部屋には入ってこないんだ。

 人を怖がってるのかな。

 白いからシュネーって呼ぶことにしたよ。


 シュネーとはドイツ語で雪のこと。雪ちゃん。あれ?なんか聞いたことあると思ったら、母の名前に似ちゃった。日本語にしてはいけない名前だ。シュネー。

 かま猫はどこに行ったんだろう。

 探しに行きたいけど、雨の攻撃力が強すぎて草原を歩く勇気が出ない。平岸パパにも『今日は外に出ないようにね』と言われてしまった。気温も低くて寒い。暖房がついてる。

 私は部屋に戻ってから、改めて冬の服を点検した。ニットを買い足すべきかヒートテックのインナーにするかで1時間迷って、結局両方買った。冬にはマイナス10度になるところに、今私は住んでいるのだ。マイナス気温。それって何だろう?年末年始に一度来てるはずなのにあまり思い出せない。

 あの時は幽霊のことなんか知らなくて楽しかったな。

 私と所長だけで。

 日曜には第1グループもヨギナミ以外来てしまうようだし、第2も伊藤ちゃん以外来そう。クラスの人ほとんど来ちゃうんじゃないか。なんだかものすごいカオスになりそう。所長大丈夫かな。日曜はいつも橋本が出てきてるはずだけど。


 聴きたい曲があるんだけど。


 奈々子さんが現れた。雷と同時に。

 めっちゃ怖かった。


 今のわざとですか!?


 わざとじゃないの!偶然!


 奈々子さんは慌てて叫んでから、


 米米CLUBの浪漫飛行が聴きたい。


 探してかけてあげた。どこかで聴いたことがある曲だった。歌詞に雨って入ってるから思い出したんだろうか。


 これ聞くと元気出ない?


 出ません。


 え〜、明るい曲じゃん。


 その後、夕方までず〜っとこの曲を聴き続けるはめになり、私はスマホが使えないのでBBCも聴けず、たまってた洋書を読んで時間を潰した。


 まあ〜懐かしいわぁ。


 この曲の話したら平岸ママが嬉しそうに叫んだ。


 今は珍しくないけど、あの頃はこういうわかりやすく明るい曲ってあまりなかったように思うけど、

 どうでしたっけね?


 平岸ママが平岸パパに聞いた。


 あの頃はこういう曲はバカっぽいと思われてたかなあ。なんていうかなあ、悲恋の曲の方が人気あったかなあ。

 もうだいぶ前だなあ。


 そういえば、かわいいものが消えていた時代があったわね。


 平岸ママが言った。


 今はみんなワンピースかわいいって言って着てるけど、あれはいつだったかしら。80年代かしら?『そんな服バカみたい』って言われて、大量に処分されたりしてたのよ?

 フェミニンなものが駄目と言われてね。女の自立と絡められて。全然関係ないのに。レースとか花柄とか、そういうのはみんな『男に媚びてる』って言われて、来て歩くだけで通りすがりに悪口を言われたりしてね。

 ほんと、今思うとおかしな時代だったわね。フェミニストがフェミニンを攻撃するなんて。

 今はレースも花柄もワンピースもなんでもあり。

 手芸も楽しいわ。いい時代よねえ。


 ワンピースが着れない時代。それは怖い。

 佐加にこの話送ったら、


 その時代に行って、

 捨てられたワンピース回収したい。


 と言ってきた。


 部屋に戻ってから、


 私の母も、レースフリフリのワンピを全部捨ててた。

 こんなものは今着れないって。

 あれは小学生の頃だと思う。90年代か少し前。


 という声がした。それだけだけど。

 どうしても話したいことだったんだろうか。


 昔、私の知らない所でいろいろ起きていて、世の中の価値観も変わった。現代も変化が激しいけれど、20年経つと着れない服がマストアイテムに変わるのだから、今から将来を考えたって何が起こるか予想できるわけがない。

 ああ、でも進路決めなきゃいけない。

 どうしよう。

 北海道にするか、東京の大学にするか。




 

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