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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年10月

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2016.10.2 日曜日 サキの日記

 夜中に話し声で目が覚めた。また奈々子さんが壁に向かってぶつぶつと何かしゃべっていて、向こう側から新道っぽい声がした。人が寝てるときに話すのやめてほしいと思ったけど、こうやって気晴らしをして昼間出てこないようにしてるのかなとも思った。

 今週は前期と後期の間の休み。短い秋休みだ。所長はもう冬が来てるって言うけど、まだ昼間の気温は20度以上あるし、今日はきれいな晴れ。


 あじさいが色あせてる。

 でも僕、この色も好きだな。

 控えめで上品でしょう。

 外国の古い家具の色みたいで。


 散歩中、所長はそんなことを言っていた。私達はまた幽霊たちと、初島が言っていた『互いを必要としている』という言葉について話し合った。


 ありきたりな考え方だけど、

 幽霊達に未練がなくなれば消えるんじゃないかな。


 昔話みたいになってきた。つまり、幽霊が成仏できないのは『何かやり残したことがあるからではないか』ということだ。


 本人と話せるときに聞いてみようか。

 でも、橋本にそういう深いこと聞こうとすると、

 嫌がりそうだなあ。

 どうして死んだのかもまだ話してくれないしね。


 私達は林の道から通りに出て、松井カフェに向かって歩いた。久しぶりにあそこのねこに会いたいと所長が言ったからだ。

 カフェのカウンターには高条がいた。ねこは出窓のクッションの上で丸まって眠っていた。私達は窓近くの席に座った。コーヒーを頼んだら松井マスターが小さなクッキーをおまけにつけてくれた。

 高条が近づいて来て、


 このねこ、幽霊の方が来ると怒って威嚇するんですよ。


 と所長に言い、


 ここ座っていいですか?


 と所長の隣の椅子を引いて言った。

 所長はいいよと答えた。


 第3グループでどっか出かけようって言ってたよね?

 前行ったとき高谷が体調崩したから、

 ゲーセンリベンジしようと思うんだけど。


 高条が私に言った。

 私は、修平が今熱出して寝てることを伝えた。


 じゃあ、次の週末にしよう。

 それまでには治るよね?


 私は気が進まなかったので、どうだろうなぁ〜と言葉を濁した。所長の前でグループ内の話しないでほしいなと思ってたら、


 じゃあ、うちに遊びに来たら?


 所長がさらっととんでもないことを言った。


 平岸家に近いし、僕、高谷君に聞きたいことがあるし、

 それに、君達も本当は幽霊の話聞きたいんでしょ?


 所長が高条に言った。高条は『そうですね』と言い、クッキーを取りに行って、大きなチョコチップクッキーを私達に配った。

 所長が、


 これ、いくら?


 と聞いたら、高条は、


 いや、俺のおごりで。


 と答えた。


 でも所長、いいんですか?

 うちのグループってあかねもいるんですよ?

 苦手じゃありませんでしたっけ?


 私は聞いた。すると、


 苦手だけど、変に誤解されて変な妄想流されるより、

 ちゃんと話しておいた方がいいと思うんだよね。


 所長は言いながらクッキーをかじった。


 あ〜!あいつの妄想やばいですからね!


 高条が顔をしかめた。新しい客が何人か入ってきて、松井マスターに呼ばれたため、高条は席を離れた。


 私はなんとなく暗い気持ちになった。研究所は私だけの場所だったのに、保坂が入り込み、今度は第3グループが入って来る。まるで学校みたいになって来た。気軽に行けなくなってしまいそうな気がした。そして、また結城さんが、()()()()()()仲良くしゃべりそうな気もする。

 カフェから出るとき、所長は高条と『日曜に研究所で』と約束していた。今日の所長は、いろいろなことをいっぺんに進めようとしているようで、ちょっと心配だった。帰ってから『部屋を片付ける』と言い始めたりしたし(結城さんがまたCDを勝手に出していたので、邪魔されて実行出来なかったけど)。




 修平は夕食には来なかった。メールで高条と所長のことを送ってみたら、


 マジで?

 それさあ、サキと久方さんが仲良いの警戒して、

 探るために言ってんじゃねえの?

 久方さんも、

 高条が探りを入れてきたの気づいたんじゃない?

 あいつ前からサキのこと気にしてるよ。

 気づかなかった?


 という嫌な返信が来た。

 何言ってんのこのカッパ?


 だから言ったじゃない。


 気がつくと後ろに奈々子さんがいた。


 あなた、顔が由希さんに似てるって。

 言ってたじゃない。

 言い寄ってきた男が50人はいるって。

 そういう美女と同じ顔してるのよ、あなた。


 私はムカついたので枕を投げつけた。奈々子さんの姿は消え、枕はクローゼットの扉に当たって落ちた。

 私はこういう話が本当に嫌いだ。

 好きだとか嫌いだとかかわいいとかかわいくないとか。

 私の本質とは何の関係もない。

 どうでもいいことなのに。



 



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